【投資戦略ウィークリー 2025年3月24日号(2025年3月21日作成)】”TOPIX堅調、独DAX・香港ハンセンが牽引。公示地価の注目点”
■TOPIX堅調、独DAX・香港ハンセンが牽引。公示地価の注目点
- 3/19の日銀金融政策決定会合、3/20の米FOMC(連邦公開市場委員会)でそれぞれ政策金利の据え置きが決定された。同じ据え置きでも、日銀は春闘に伴う賃金上昇率の高さを背景に利上げバイアスを残す一方、米FOMCでは米FRB(連邦準備制度理事会)のバランスシート縮小を意味するQT(量的引き締め)について米国債の縮小ペースを月間250億ドルから50億ドルへと減速するとした。QTの減速は利下げバイアスの表れといえる。
- 日本株に二極化の兆しがみられる。日経平均株価は昨年9月下旬~今年2月下旬までの3万8000~4万円のレンジ価格帯から、米国の主要株価指数の下落に連動して3万6000~3万8000円のレンジ価格帯に下方シフトした一方、主として東証プライム市場上場銘柄から構成されるTOPIX(東証株価指数)は昨年7月下旬以来の高値を奪還した。ドイツが国防費増額を目的として財政拡大政策へ歴史的な転換局面を迎えたことを背景に、米国から同様に防衛費拡大を要請されている日本でも防衛関連銘柄が活況となっているほか、ドイツを中心に欧州の売上比率が高く、かつ割安な状態が続いていた機械・化学・建設資材関連銘柄が買われている。中国の全人代(全国人民代表者会議)で消費や不動産を下支えしながら、産業政策によってハイテク企業を支援する姿勢を鮮明にしたことも中国メリット銘柄の株価を押し上げている。
- 3/19終値の昨年末来騰落率を見ると、米ナスダック総合指数が▲1%、日経平均株価が▲5.1%に対し、TOPIXが+0.4%、独DAX指数が+17.0%、香港ハンセン指数が+23.5%と、明暗を分けた。「グローバル・サウス」の雄であるインドのBSEセンセックス指数は▲3.4%であり、基本的には昨年堅調だった指数と、相対的に上昇が鈍かった市場が今年になって入れ替わる「平均回帰」の動きとなっている。買われ過ぎたものが売られ、売られ過ぎたものが買われるという、シンプルな調整に過ぎない。日本株は、日経平均株価が高PBR(株価純資産倍率)の水準まで買われ過ぎた人気の半導体関連銘柄の調整局面に連動して下落する中、目立たないながらも全体としては堅調に推移していると言うべきだろう。
- 3/18に今年の公示地価(1/1基準日)の発表があり、訪日外国人(インバウンド)や駅周辺の大規模再開発などを背景に住宅地、商業地ともに上昇幅が拡大。不動産価格の上昇は担保価値の上昇に伴って銀行の貸出余力を高めるだろう。不動産株と銀行株が連動して動く傾向が強まると見込まれる。また、3/19発表の2月の訪日外国人客数は325万人余りと、2月としては過去最高。長野県白馬村は住宅地の公示地価上昇率で全国2位。日本スキー場開発(6040)によるスキー場再生プロジェクトが貢献している。(笹木)
- 本日号は、武蔵精密工業(7220)、新明和工業(7224)、ナカニシ(7716)、千葉銀行(8331)、セブンイレブン・マレーシア・ホールディングス(SEM)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 3月26日(水):(米)シンタス、ペイチェックス
- 3月27日(木):TAKARA & COMPANY、ハニーズホールディングス、フィードフォースグループ、(米)ルルレモン・アスレティカ
- 3月28日(金):キユーソー流通システム
■主要イベントの予定
- 3月24日(月):
・日銀の国債買い入れオペ、ミライロが東証グロースに新規上場、ブラジルのルラ大統領が訪日(27日まで)、09:30 auじぶん銀行日本複合・サービス業・製造業PMI (3月)
・英中銀総裁が講演(ケープタウン)、中国開発フォーラム最終日(北京、23日から開催)
・米S&Pグローバル製造業・サービス業・総合PMI(3月)、 ユーロ圏製造業・サービス業・総合PMI(3月)
- 3月25日(火):
・08:50 日銀金融政策決定会合議事要旨(1月23・24日分)、15:30 経団連会長会見、ビジュアル・プロセッシング・ジャパンが東証グロースに新規上場、14:30 全国百貨店売上高・ 東京地区百貨店売上高(2月)
・米ニューヨーク連銀総裁、会議で開会のあいさつ、 博鰲(ボアオ)アジアフォーラム(中国海南省ボアオ、28日まで)
・米FHFA住宅価格指数(1月)、 米主要20都市住宅価格指数(1月)、米新築住宅販売件数(2月)、米消費者信頼感指数(3月)、欧州新車販売台数(2月)、独IFO企業景況感指数(3月)
- 3月26日(水):
・08:50 企業向けサービス価格指数(2月)、09:00 ルネサスエレクトロニクス定時株主総会、14:00 景気先行CI・一致指数(1月)、15:30 日本取引所グループの山道CEO定例会見
・バンコク国際モーターショーが開幕(ノンタブリ、4月6日まで)
・米耐久財受注(2月)、 英CPI(2月)
- 3月27日(木):
・財務省が40年利付国債入札、ダイナミックマッププラットフォームとZenmuTechが東証グロースに新規上場、08:50 対外・対内証券投資(3月16-22日)、10:00 美術館運営問題を抱えるDICが定時株主総会を開催
・米リッチモンド連銀総裁が講演・質疑応答、メキシコ中銀とノルウェー中銀が政策金利発表
・米卸売在庫(2月)、米新規失業保険申請件数(3月22日終了週)、 米GDP(4Q、確定値)、米中古住宅販売成約指数(2月)、ユーロ圏マネーサプライ(2月)
- 3月28日(金):
・日銀の国債買い入れオペ、プログレス・テクノロジーズ グループとトヨコーが東証グロースに新規上場、08:30 東京CPI(3月)、08:50 日銀金融政策決定会合における主な意見(3月18・19日分)、10:00 キヤノン定時株主総会
・米アトランタ連銀総裁がパネル討論会で司会、ECBによるユーロ圏CPI予想(2月)
・米個人所得・支出(2月)、 米個人消費支出(PCE)価格指数(2月)、米ミシガン大学消費者マインド指数(3月)、ユーロ圏消費者信頼感指数(3月)、ユーロ圏景況感指数(3月)、独失業率(3月)、 英GDP(4Q)
- 3月30日(金):
・欧州夏時間開始
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■エヌビディア年次開発者会議(GTC)
米エヌビディア(NVDA)のジェンセン・ファンCEOが3/18、年次開発者会議「GTC」の基調講演を行った。中国の新興企業「DeepSeek」が1月に低コストで高度なAI(人工知能)モデル「R1」を開発したと伝わったことに対し、エヌビディア製の半導体の需要が伸び悩むとの見方が株式市場で広がっていた中、ファンCEOはこの見方を否定。AI処理を効率化するソフトウエア「ダイナモ」を使ってR1を動かす場合、GPUの1つ当たり処理能力が30倍以上に高まると述べた。さらに、ダイナモはオープンソースとして外部に無償公開するとした点も注目される。
同社が10年近く取り組んできたヒト型ロボット新技術も公開。アジリティ・ロボティクスの「ディジット」の開発にはエヌビディアのシミュレーション技術が使われている。
【エヌビディア年次開発者会議(GTC)~DeepSeekと共存、ヒト型ロボット注力】
■金先物1000ドル単位節目は鬼門
CMX金先物(期近)終値は3/18に1オンス3040.8ドルと、史上最高値を更新。背景には、トランプ米政権の関税政策に伴う景気不透明感に加え、イスラエルがパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスを標的に大規模空爆を実施したことで地政学リスクが高まったことがある。
過去に金価格が1オンス1000ドル単位の節目を初めて突破後の推移を見ると、2008年3月に1000ドル超え後、同年9月まで約26%下落。2020年8月に初めて2000ドル突破後、2022年9月安値まで約21%下落した。中東情勢はトランプ米政権が断固とした姿勢を鮮明にし、ウクライナ情勢もプーチン露大統領との協議という新たな段階に入るなど硬軟使い分けて問題解決を模索中。必ずしも地政学リスクが高まっていると言い切れないだろう。
【金先物1000ドル単位節目は鬼門~1000ドル、2000ドル超え後に調整あり】
■テクニカル分析の「三種の神器」
業績見通しなどで有望な銘柄を見つけたとして、買いエントリーのタイミングも重要だろう。投資家の間でよく使われるテクニカル分析では、以下の3つの手法がある。①株価下落後に反転し大幅に上昇した後、一度下落して最初の下落前の株価まで押した時点(S構成点)を買いタイミングとする手法。②株価が大幅に下落後、底値圏でのもみ合いから上昇タイミングを見極める際、一目均衡表の「遅行線」がローソク足を上回った時点を買いタイミングとする手法。③株価大幅下落後、一番底(大底)を付けた後に自律反発し、再度下落して二番底を付けた後、短期の移動平均線が長期の移動平均線を上抜き(ゴールデンクロスを形成し)、右上がりになった時点を買いタイミングとする手法。以上の3つである。
【テクニカル分析の「三種の神器」~S構成点、遅行線、二番底ゴールデンクロス】
■銘柄ピックアップ
武蔵精密工業(7220)
2825 円(3/21終値)
・1938年に品川区戸越で大塚製作所を創業し、航空発動機用気化器の部品の製造を開始。自動車用パワートレイン、サスペンション、ステアリング、トランスミッションの部品等の製造販売を主に営む。
・2/7発表の2025/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比0.3%減の2566億円、営業利益が同4.6%増の120億円。売上比率29.5%の米国、同9.5%のアジア(日本・中国を除く)が増収・増益の一方、同26.0%の欧州が減収・赤字転落、同11.2%の日本と同9.5%の中国が減収・減益だった。
・通期会社計画は、売上高が前期比4.3%減の3350億円、営業利益が同0.7%増の185億円、年間配当が同10円増配の50円。同社株式の約25%を保有するホンダ(7267)は、新興国市場で同社技術を搭載した2輪・3輪EV(電動バイク)の販売を伸ばしている。ドイツが歳出法案を採決し、財政拡大政策へ大転換。同社はドイツの売上比率の高さが10%台後半と、国内上場企業でも有数の水準。
新明和工業(7224)
1493 円 (3/21終値)
・1949年に企業再建整備法に基づき前身の川西航空機の第2会社として設立。輸送機器・産業機械を製造。航空機、特装車、産機・環境システム、パーキングシステム、流体、その他事業を営む。
・2/4発表の2025/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比5.4%増の1872億円、営業利益が同32.0%増の83億円。受注高は同1.0%増の2091億円、12月末受注残は同9.7%増の3147億円。受注高は、航空機が65%増の247億円。特装車、流体も増加。産機・環境システム、パーキングが減少。
・通期会社計画は、受注高を前期比1.5%減の2870億円(従来計画2780億円)へ上方修正、売上高を同3.1%増の2650億円(同2700億円)へ下方修正の一方、営業利益が同10.5%増の130億円、年間配当が同3円増配の50円で従来計画を据え置き。2023-~27年度防衛費予算が拡大の中、同社が製造する海上自衛隊運用の国産唯一の水陸両用救難飛行艇「US-2」の導入拡大が見込まれる。
ナカニシ(7716)
7716 円(3/21終値)
・1930年に歯科治療用ハンドピース製造のため東京都千代田区で創業後、1945年に栃木県鹿沼市に移転。歯科医療用機器の歯科事業、骨切削機器等の外科事業、工業製品の機工事業を営む。
・2/12発表の2024/12通期は、売上高が前年同期比29.1%増の770億円、EBITDA(営業利益に減価償却費およびのれん償却額を加算)が同15.3%増の204億円。機工事業が減収・営業減益も、主力の歯科事業と外科事業が増収・営業増益。昨年8月買収の米DCI社事業は営業利益0.9億円計上。
・2025/12通期会社計画は、売上高が前期比4.7%増の806.55億円、EBITDAが同7.5%減の189.32億円、年間配当が同2円増配の54円。2024年度の地域別売上高は、欧州が前期比5%増の200億円(売上比率26%)。同社は創業以来、超高速回転技術を核として事業展開。ドイツの財政拡大政策への転換に伴い、航空機分野を含む工業製品の機工事業を中心に欧州での伸びが見込まれる。
千葉銀行(8331)
1515 円 (3/21終値)
・1943年に3行合併で設立。第一地銀で千葉県最大。2015年10月に同行を含む3行により、経営統合によらない地銀広域連携の「TSUBASAアライアンス」が発足。現在は10行参加で国内最大の連携。
・2/7発表の2025/3期9M(4-12月)の単体は、資金利益や役務取引等利益の増加によりコア業務純益が前年同期比14.4%増の772億円、与信関係費用増も、株式売却益増もあり経常利益が同12.3%増の796億円。12月末時点で貸出残高が4.1%増、預金残高(譲渡性預金含む)が2.9%増。
・通期会社計画(連結)は、経常利益が前期比9.4%増の988億円、当期利益が同12.1%増の700億円。年間配当は同8円増配の40円(従来計画36円)へ上方修正。同行はTOB(株式公開買付)を通じ、24年12月にAI(人工知能)システム企業のエッジテクノロジーを完全子会社化。銀行が持つビッグデータの活用、AIを使った企業支援策が目的とみられ、広域連携地銀への横展開も見込まれる。
セブンイレブン・マレーシア・ホールディングス(SEM)
市場:マレーシア 16.83 MYR (3/20終値)
・1984年設立。コングロマリット大手のベルジャヤ・グループ傘下で、2024年末時点でセブンイレブンを2635店舗運営。23年末にマレーシア首位の薬局チェーン「ケアリング・ファーマシー」を売却した。
・2/27発表の2024/12期4Q(10-12月)は、コンビニ事業の売上高が前年同期比7.4%増の745百万MYR、税引き前利益が前年同期の▲48百万MYRから9百万MYRへと黒字転換。店舗数の増加(12月末で同69店増)と年末商戦の活況が増収に貢献。人件費および広告宣伝費の削減が利益に寄与。
・マレーシアは今年2月より最低賃金が月額1500MYRから1700MYRへ引き上げられた一方、6月からRON(オクタン価)95ガソリンの値上げ、および7月以降にマレーシア半島部の基本電気料金引き上げが予定されている。同社への追い風と逆風の両面がある中、「セブン・カフェ」と高付加価値生鮮食品を組み合わせた店舗への改装を進めることで、生産性向上と利益率の改善が見込まれる。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(3/24号「アセアン市場のセブンイレブン運営企業」)
セブンイレブンのコンビニ店舗は、全世界で8万4333店舗(2023年9月末時点)に達する。その内、アセアン市場では、タイが1万4391店、フィリピンが3624店、マレーシアが2532店、シンガポールが489店、ベトナムが95店、カンボジアが72店、ラオスが1店で、合計2万1204店舗。日本の2万1431店舗とほぼ同水準だ。
各国でフランチャイズ権を付与されたサブ・フランチャイザー企業は、タイが国内最大コングロマリットであるチャロン・ポカパン(CP)グループ傘下のCPオール、フィリピンが台湾の統一超商(プレジデント・チェーンストア)の傘下企業で、統一超商は台湾全域(6806店舗)でもセブンイレブンを展開する。マレーシアはベルジャヤ・グループ、シンガポールは香港拠点の英系ジャーディン・マセソン・ホールディングス傘下企業のDFIリテール・グループ・ホールディングスが担っている。
- 上場有価証券等のお取引の手数料は、国内株式の場合は約定代金に対して上限1.265%(消費税込)(ただし、最低手数料2,200円(消費税込)、外国取引の場合は円換算後の現地約定代金(円換算後の現地約定代金とは、現地における約定代金を当社が定める適用為替レートにより円に換算した金額をいいます。)の最大1.10%(消費税込)(ただし、対面販売の場合、3,300円に満たない場合は3,300円、コールセンターの場合、1,980円に満たない場合は1,980円)となります。
- 上場有価証券等は、株式相場、金利水準等の変動による市場リスク、発行者等の業務や財産の状況等に変化が生じた場合の信用リスク、外国証券である場合には為替変動リスク等により損失が生じるおそれがあります。また新株予約権等が付された金融商品については、これらの権利を行使できる期間の制限等があります。
- 国内金融商品取引所もしくは店頭市場への上場が行われず、また国内において公募、売出しが行われていない外国株式等については、我が国の金融商品取引法に基づいた発行者による企業内容の開示は行われていません。
- 金融商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、お取引に際しては、当該商品等の契約締結前交付書面や目論見書又はお客様向け資料をよくお読みください。
免責事項
- この資料は、フィリップ証券株式会社(以下、「フィリップ証券」といいます。)が作成したものです。
- 実際の投資にあたっては、お客様ご自身の責任と判断においてお願いいたします。
- この資料に記載する情報は、フィリップ証券の内部で作成したか、フィリップ証券が正確且つ信頼しうると判断した情報源から入手しておりますが、その正確性又は完全性を保証したものではありません。当該情報は作成時点のものであり、市場の環境やその他の状況によって予告なく変更することがあります。この資料に記載する内容は将来の運用成果等を保証もしくは示唆するものではありません。
- この資料を入手された方は、フィリップ証券の事前の同意なく、全体または一部を複製したり、他に配布したりしないようお願いいたします。
アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。