【投資戦略ウィークリー 2025年3月10日号(2025年3月7日作成)】”高い賃上げ率なのに日経平均株価は下落。なぜ?”
■高い賃上げ率なのに日経平均株価は下落。なぜ?
- 日経平均株価が3/6に終値3万7704円となった後、午後5時から夜間取引を開始した日経平均先物(3月限)は為替の円高ドル安の進行に伴って売られ、午後8時には3万7040円まで下落した。「一体何が起こったのだろう?」と驚いた人も多かったのではないだろうか。午後4時頃に日本最大の労働組合組織である連合が、2025年春闘の賃上げ要求が32年ぶりに6%を超えたと発表。これにより、日本銀行による早期の追加利上げ観測が高まり、先物価格の下落要因となったようだ。内田副総裁も同日、物価の基調を考える上で「一番重要なのは賃金」と説明していた。
- 賃上げは日本経済、消費者にとって望ましいにも関わらず、株式市場が売りで大きく反応している。円高ならなおさら、消費者の実質購買力は向上する。先物価格下落の背景には、日本の長期金利(10年国債利回り)上昇への懸念がある。長期金利が1~1.2%水準までならば「賃金上昇と物価上昇の好循環」から金利上昇と日経平均株価の予想PER(株価収益率)上昇が両立するものの、さらに上昇すると予想PERが低下する傾向もみられる。
- 長期金利は日銀の金融政策への期待だけで動くのではない。ウクライナへの軍事支援問題も絡み、欧州一の経済大国であるドイツは、景気回復と軍備増強に向けて厳格な債務抑制の基本原則である「債務ブレーキ」を緩和し、国防費とインフラ支出の大幅引き上げを行う「財政政策の大転換」について連立与党候補どうしで合意。これによりドイツ長期金利は大幅に上昇した。日本も、2027年度に防衛費を国内総生産(GDP)比で2%にすることを目指している中で、米国防総省幹部候補から3%以上に引き上げるべきだと要求されている。防衛費増額のために国債発行増額が必要とされれば、日本の長期金利も上昇せざるを得ないだろう。
- 日経平均株価は3/7に3万6827円まで下落する場面があった。これは、昨年7/11に付けた史上最高値4万2426円から8/5に付けた昨年来安値の3万1156円への下落幅の半値戻し水準(3万6791円)付近にある。この価格水準は当面の間、意識されやすいだろう。足元の株価下落は長期金利上昇だけでなく、米国のAI(人工知能)半導体、およびデータセンターへの投資を増強する主要大型ハイテク銘柄の株価下落が日本のAI半導体およびデータセンター関連銘柄に波及している面も大きな要因だ。昨年買われた米国株から割安な欧州株や香港株へグローバルな投資資金がシフトする中で、日本株においても昨年買われたAI半導体やデータセンター関連銘柄から割安な銘柄群へと資金がシフトする構造変化を主な要因と考えられる調整局面と捉えるべきだろう。(笹木)
本日号は、明治ホールディングス(2269)、日本スキー場開発(6040)、大和証券リビング投資法人(8986)、トライアルホールディングス(141A)、バンクネガラインドネシア[ペルセロ](BBNI)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 3月10日(月):萩原工業、ビューティガレージ、アインホールディングス、学情、(米)オラクル
- 3月11日(火):シーアールイー、三井ハイテック、シルバーライフ、セルソース
- 3月12日(水):gumi、サムコ、ファーマフーズ、(米)アドビ
- 3月13日(木):HEROZ、アイモバイル、シーイーシー、ダブル・スコープ、トーホー、ネオジャパン、ビジョナル、ラクスル、柿安本店、鎌倉新書、巴工業
- 3月14日(金):正栄食品工業、神戸物産、稲葉製作所、ヤーマン、モロゾフ、マクビープラネット、ポールトゥウィンホールディングス、フリービット、パーク24、トリケミカル研究所、スバル興業、ジェイ・エス・ビー、くら寿司、グッドコムアセット、オハラ、エイチーム、アクシージア、JMホールディングス、Hamee
■主要イベントの予定
- 3月10日(月):
・財務省5年利付国債入札、08:30 毎月勤労統計-現金給与総額・ 実質賃金総額(1月)、08:50 国際収支:経常収支・ 貿易収支(1月)、08:50 銀行貸出動向(2月)、14:00 景気一致指数・先行CI指数(1月)、15:00 景気ウォッチャー調査 現状判断・先行き判断(2月)、15:30 経団連会長会見
・エネルギーの国際会議「CERAウイーク」(米テキサス州ヒューストン、14日まで)、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ、ブリュッセル)
・独鉱工業生産(1月)、中国経済全体のファイナンス規模、新規融資、マネーサプライ(3月、15日までに発表)
- 3月11日(火):
・日銀国債買い入れオペ、08:30 家計支出(1月)、08:50 国内総生産(GDP、10-12月期改定)、08:50 マネーストックM2・M3(2月)、15:00 工作機械受注(2月)
・EU財務相理事会(ブリュッセル)、グリーンランド総選挙、中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が閉幕
・米求人件数(1月)
- 3月12日(水):
・財務省20年利付国債入札、8:50 景況判断BSI大企業製造業・全産業(1Q)、08:50 国内企業物価指数(2月)、14:00 地銀協会長会見
・G7外相会合(カナダ・ケベック州シャルルボア、14日まで、 米国の鉄鋼・アルミニウム関税が発効、 ラガルドECB総裁、フランクフルト会議で講演、OPEC月報
・ 米CPI(2月)、米財政収支 (2月)
- 3月13日(木):
・08:50 対外・対内証券投資 (3月2-8日)、15:30 全銀協会長会見
・ペルー中銀が政策金利発表
・米新規失業保険申請件数(8日終了週)、 米PPI(2月)、ユーロ圏鉱工業生産(1月)
- 3月14日(金):
・連合25年春闘の第1回回答集計結果
・米つなぎ予算失効期限
・米ミシガン大学消費者マインド指数(3月)、 独CPI(2月)、 英鉱工業生産(1月)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■2007年9月利下げ以降と類似点
米FRB(連邦準備制度理事会)は昨年9/18、景気後退を防ぐ先制的措置として、政策金利をそれまでのピーク据え置き局面から0.5ポイント引下げ、大幅利下げへ転換。その後、11月および12月のFOMC(連邦公開市場委員会)でも、それぞれ0.25ポイントずつ利下げを実施した。奇しくも、2007年も同じ9/18に、1年以上の据え置き期間を経て0.5ポイントの利下げを実施。その後、12月までの2回のFOMCでそれぞれ0.25ポイントの利下げを実施。
2007年の米国株市場は、最初の利下げを好感して上昇したものの、S&P500株価指数が10/11にピークを付けて下落に転じた。一方で、今回は、S&P500指数の過去最高値を2/19に記録。2007年の利下げ転換時よりも上昇が持続していたが、その後、3/4安値まで約7%近く下落した。
【2007年9月利下げ以降と類似点~当時より株価と金利は高く、CPIは低いが】
■主要国長期金利と為替相場動向
2025年初以降の米国・ユーロ圏・日本の長期金利および為替相場(ドル円、ユーロドル)を見ると、日本は日銀の利上げ観測を背景に長期金利が昨年に引き続いて上昇継続したのに対し、1月は米国・ユーロ圏ともに利下げ観測を背景に長期金利が低下。米トランプ大統領による輸入関税導入の動きも、景気悪化を通じて長期金利低下につながっていた。
トランプ大統領がウクライナ戦争でロシアとの停戦協議に前向きな姿勢を示した2月中旬以降、欧州の防衛費負担増が懸念され、ドイツ長期金利が上昇。トランプ大統領がウクライナへの軍事支援の一時停止を指示した3/4以降も上昇が続いた。欧州の防衛関連銘柄が買われ、ユーロが対ドルで上昇。日本政府も防衛費負担増を米国から求められている。
【主要国長期金利と為替動向~欧州防衛費負担問題が金融市場の中心へ】
■日米長期金利と日本株・JREIT
長期金利上昇は、将来収益の現在価値を低下させるため、予想PER(株価収益率)を低下させる要因と考えられる。2024年初以降の日経平均株価における予想PERと日本国債10年物利回りの推移では、10年国債利回りが1.1%を上回ると予想PERが低下する傾向がみられる。長期金利が1.1%までであれば日本経済への負の影響が小さい面もあるだろう。
一般的に金利上昇は不動産投資に不利とされる。しかし、上場不動産投資信託(J-REIT)は年初以降の日本国債10年物利回り上昇する中で、投資口価格が大幅下落につながっていない。東証リート指数の予想分配金利回りも、年初来低下基調の米国債利回りと相関がみられる。J-REIT市場への海外投資家の影響力が背景にあると考えられる。
【日米長期金利と日本株・JREIT~日本株PERと国内金利、JREITと米長期金利】
■銘柄ピックアップ
明治ホールディングス(2269)
3214 円(3/7終値)
・2009年に明治製菓と明治乳業が合併して設立。食品と医薬品の2事業セグメントを営む。「化学及び血清療法研究所(化血研)」の製薬事業を継承したKMバイオロジクスを2018年に連結子会社化。
・2/10発表の2025/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比5.0%増の8750億円、営業利益が同4.7%減の664億円。食品セグメントは、売上高が同3%増の7016億円、営業利益が同2%増の494億円。医薬品セグメントは、売上高が同13%増の1740億円、営業利益が同11%減の203億円だった。
・通期会社計画は、売上高が前期比4.8%増の1兆1590億円、営業利益が同2.0%増の860億円、年間配当が同5円増配の100円。9Mの医薬品は、「ワクチン・動物薬」を除く営業利益が前年同期比26%増。厚生労働省は血液からつくる医薬品「免疫グロブリン製剤」の増産支援を行う。国内で採血された血液を使って対象薬を作っているのはKMバイオロジクス、武田薬品工業(4502)を含む3社。
日本スキー場開発(6040)
1289 円 (3/7終値) ※東証グロース上場
・2005年に日本駐車場開発(2353)により設立。スキー場事業を展開。特徴あるスキー場を取得し、地元関係者と一体となって冬以外の「グリーンシーズン」も含めてスキー場活性化・再生に取り組む。
・3/7発表の2025/7期1H(8-2月)は、売上高が前年同期比26.5%増の49.55億円、営業利益が同54.0%増の10億円。来場者数は、8月~11月中旬(グリーンシーズン)が426千人と3年連続で過去最高を更新。11月下旬~1月(ウインターシーズン)も前年同期比100千人増の822千人で過去最高。
・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比19.5%増の98.5億円(従来計画96億円)、営業利益を同22.4%増の19億円(同17億円)、年間配当を株式分割考慮後で同0.17円増配の3.5円(同3.33円)とした。グリーンシーズンでも大自然の眺望を望む展望テラス、大型遊具施設、キャンプフィールドの展開等を通じ、1年を通じた営業体制を整えることに成功。「地方創生2.0」の成功例と言えるだろう。
大和証券リビング投資法人(8986)
88100 円(3/7終値)
・2005年設立。大和証券グループ本社(8601)をスポンサーとする住居系J-REITの日本賃貸住宅投資法人が20年4月に日本ヘルスケア投資法人と合併。24年2月末資産規模は住宅7対ヘルスケア3。
・11/20発表の2024/9期(4-9月)は、営業収益が前期(2024/3期)比6.6%増の141億円、営業利益が同7.5%増の70億円、1口当たり分配金(利益超過分配金を含まない)が同4.3%増の2400円。賃貸物件3件取得(取得価格合計66億円)、4件売却(譲渡価格合計55億円)の資産の入替を実施した。
・2025/3期(10-3月)会社計画を上方修正。営業収益を前期(2024/9期)比3.9%増の147億円(従来計画132億円)、営業利益を同9.9%増の77億円(同66億円)、1口当たり分配金を同8.3%増の2600円(同2400円)とした。3/6終値で2025/9期までの会社予想年分配金利回りが5.65%、株式のPBRと似た指標のNAV倍率が0.76倍。一般に賃貸借契約はヘルスケア施設の方が住宅よりも固定・長期。
トライアルホールディングス(141A)
2000 円 (3/7終値) ※東証グロース上場
・1974年に福岡市で家電製品販売「あさひ屋」を創業。「TRIAL」ブランドのディスカウントストアを全国展開する「流通小売事業」とセルフレジ付きショッピングカートの「Skip Cart」ほか「リテールAI事業」を主に営む。
・2/13発表の2025/6期1H(7-12月)は、売上高が前年同期比11.1%増の4037億円、営業利益が同16.2%減の97億円。既存店売上高成長率が3.9%、粗利益率が0.1ポイント上昇の19.8%。6月末では店舗数が前年末比20店増の338店、Skip Cart導入店舗数が同22店増の245店(うち外販3社・4店)。
・通期会社計画は、売上高が前期比12.7%増の8088億円、営業利益が同20.0%増の229億円、年間配当が同1円増配の16円。同社は3/5,西友の完全子会社化を発表。取得価額は概算3826億円と同社総資産額(前年末3146億円)を超える。新株発行を伴う資金調達予定はなく、取引銀行から概算3700億円の借入金調達方針。金利上昇を見越した戦略的な大型買収という側面もあるだろう。
バンクネガラインドネシア[ペルセロ](BBNI)
市場:インドネシア 4590 IDR (3/6終値)
・1946年設立の国有商業銀行。当初は中央銀行の機能もあったが、1949年に蘭系ジャワ銀行に中銀業務を引き継がせた。設立年にちなみ、「46」をロゴマークやブランド名に取り入れている。
・1/22発表の2024/12通期は、総収益が前期比2.8%増の64.51兆IDR、純利益が同2.7%増の21.46兆IDR。純金利収益は純金利マージンの低下により1.9%減の40.48兆IDRに対し、企業向けビジネス関連フィーの高い伸び(15%増)を受けて手数料収益が同10.2%増の16.28兆IDRと、堅調に推移。
・2025/12通期会社計画は、貸出残高が前期比10-12%増と伸び加速を見込む。純金利マージンは4.0-4.2%(前期実績4.20%)。デジタルチャネル(Eバンキング)でモバイルバンキングの取引金額が伸びる中で、特に企業などビジネス顧客向けのデジタル取引金額は2025/12通期で同23%増の7.93兆IDR。インドネシアは通貨安が続くことから利下げが容易ではない点は金利面で追い風だろう。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(3/10号「デング熱ワクチンとインドネシアの取組み」)
デング熱は蚊が媒介する感染症で、世界保健機関(WHO)によると世界で年1~4億人近くが感染していると推計される。主に流行するのはアジアや南米など熱帯地域だが、温暖化に伴って感染地域が拡大。WHOが確認した2024年の世界の症例数も過去最高の1400万件超えだった。
武田薬品工業(4502)はデング熱ワクチン「キューデンガ」を世界で発売。2025年2月時点で世界40ヵ国・地域で承認された。WHOの承認を受けたワクチンは、世界でキューデンガを含めて2種類のみ。インドネシアは2022年、世界に先駆けてキューデンガを承認。これまでは無料で受けられる政府の予防接種プログラムに組み込まれていないものの、東カリマンタン州の一部の小学校で、無料の公的接種が試験的に実施され始めた。交通利便性向上や都市化の進行で感染が地方に広がっている模様だ。
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笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。