【投資戦略ウィークリー 2025年2月25日号(2025年2月21日作成)】”日銀ETF、地方創生・デジタル技術、エネルギー基本計画”
■日銀ETF、地方創生・デジタル技術、エネルギー基本計画
- トランプ関税を巡る市場の懸念は、トランプ大統領が猶予期間を設けたことなどからやや後退しつつある。ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、米露両国が停戦交渉の開始で合意。欧州首脳がパリで緊急会議を開催したことを受け、防衛力強化に向けた支出増のため国債発行増加を巡る懸念が広がった。世界の株式市場は昨年末以降、欧州株が牽引役を担っていたが、2/23に実施されるドイツ総選挙後の経済対策見通しを含め、欧州の債券市場が今後の金融市場の攪乱要因となる可能性があるだろう。
- 日本でも国会審議で予算財源を巡る動きが活発化してきている。立憲民主党は日銀保有のETFを活用し、分配金を高校授業料無償化などの政策に充てるよう求めている。日銀保有のETFは昨年3月末時点で簿価37兆円、時価74兆円。日銀は昨年3月のマイナス金利解除から、7月に国債購入の減額など正常化に着手している。日銀が金融危機(2002年11月~2004年9月、2009年2月~2010年4月)に金融機関から買い入れた株式の売却が、2016年4月開始から想定よりも早い今夏にも完了する見通しだ。これまで長らく議論されてこなかった保有ETFの処分を巡る議論が始まる可能性があり、日経平均株価の上値を重くする要因となりそうだ。
- 埼玉県八潮市で発生した下水道管の破損が原因とみられる道路陥没事故を受け、地方自治体が下水道管を点検する動きを活発化している。石破首相は人工衛星やドローンを活用した上下水道の漏水検知などのデジタル技術について、目標を前倒しして3年程度で実現するように関係閣僚に指示。さらに、看板政策である「地方創生」の実現に向けてAI(人工知能)の開発や活用を一層進めるとして、データセンターの整備や電力の確保を検討する官民の協議会を速やかに立ち上げるとした。Terra Drone(278A)やLiberaware(218A)などドローン関連グロース銘柄が注目される。
- 新型コロナ禍以降、リモートワークの普及を通じて場所にとらわれずに全国の取引先とビジネスを拡大する地方企業が増加し、プロ投資家向けのTOKYO Pro Marketなどに上場する実例が増えてきた。デジタル技術は地方創生と相性が良い。
- 政府は2/18、新たなエネルギー基本計画を閣議決定。2040年度の電源構成を再エネで4-5割(現在9%)、原子力で2割(現在8.5%)、火力で3-4割とした。原発目標の達成に向けて経産省は「建設中を含めて国内に現存する36基のほぼ全ての稼働が欠かせない」とみる。また、再エネ電源の多くは自然条件に影響を受けて需給バランスが急変しやすいことから、電力先物取引市場の一層の拡大が見込まれる点は注目すべき点である。(笹木)
本日号は、日清紡ホールディングス(3105) 、日本板硝子(5202)、ルネサスエレクトロニクス(6723)、アルファポリス(9467)、タイ石油開発公社(PTTEP)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 2月24日(月):(米) ダイヤモンドバック・エナジー
- 2月25日(火): ZETA、(米)ワークデイ、インテュイット、アクソン・エンタープライズ、ホーム・デポ、キューリグ・ドクターペッパー
- 2月26日(水):゙プラネット、(米)セールスフォース、エヌビディア、シノプシス、ベリスク・アナリティクス、ロウズ
- 2月27日(木):(米)オートデスク、ワーナーブラザース・ディスカバリー
- 2月28日(金):ラクーンホールディングス、東和フードサービス、キタック、ナトコ
■主要イベントの予定
- 2月24日(月):
・ロシアのウクライナ侵攻から3年、EU外相理事会(ブリュッセル)
・ユーロ圏CPI(1月)、独IFO企業景況感指数(2月)
- 2月25日(火):
・08:50企業向けサービス価格指数(1月)、14:30全国百貨店売上高・東京地区百貨店売上高(1月)、15:00工作機械受注(1月)、15:30経団連会長会見
・米ダラス連銀総裁と米リッチモンド連銀総裁が講演、韓国中銀が政策金利発表
・米FHFA住宅価格指数(12月)、米主要20都市住宅価格指数(12月)、米消費者信頼感指数(2月)、欧州新車販売台数(1月)、独GDP(4Q)
- 2月26日(水):
・日銀の国債買い入れオペ、東京エレクトロンIRデー、14:00景気先行CI・景気一致指数(12月)、15:30日本取引所グループの山道CEO定例会見
・G20財務相・中央銀行総裁会議(南アフリカ、27日まで)、米アトランタ連銀総裁が講演
・米新築住宅販売件数(1月)
- 2月27日(木):
・財務省の2年利付国債入札
・米クリーブランド連銀総裁と米フィラデルフィア連銀総裁が講演、ECB議事要旨(1月開催分)
・米新規失業保険申請件数(22日終了週)、米耐久財受注(1月)、米GDP(4Q、改定値)、米中古住宅販売成約指数(1月)、ユーロ圏マネーサプライ(1月)、ユーロ圏消費者信頼感指数(2月)、ユーロ圏景況感指数(2月)
- 2月28日(金):
・TENTIALが東証グロースに新規上場、08:30東京CPI(2月)、08:50小売売上高&百貨店・スーパー売上高(1月)、08:50鉱工業生産(1月)、08:50対外・対内証券投資(2月16-22日)、14:00住宅着工件数(1月)、17:00日銀国債買い入れ日程(3月)
・米連邦準備制度理事会(FRB)のバー副議長(銀行監督担当)が退任、米シカゴ連銀総裁が質疑応答に参加、ECBによるユーロ圏CPI予想(1月)、リオのカーニバル開幕(ブラジル・リオデジャネイロ、3月8日まで)
・米個人所得・支出(1月)、米個人消費支出(PCE)価格指数(1月)、米卸売在庫(1月)、独失業率(2月)、独CPI(2月)、インドGDP(4Q)
- 3月1日(土):
・中国製造業・非製造業PMI(2月)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■1000-5000億USDの有望米企業
米国上場銘柄(ADRを含む)で時価総額1兆ドルを超えるのは、2/19終値で「マグニフィセントセブン」を含む10銘柄。特定少数の大型ハイテク・半導体銘柄に買いが集中していたが、グローバル株式市場では、第2次米トランプ政権発足に伴って規制緩和を含んだ様々な政策の大幅変更を契機に、欧州株や中国ハイテク・半導体株など昨年まで相対的に出遅れた銘柄群へと資金が移行しつつある。
「1兆ドルクラブ」の銘柄もやや上値が重くなる中で、次の1兆ドルを目指す銘柄の動きも注目される。昨年末来騰落率が20%以上のテクノロジー銘柄は、トランプ政策や生成AI(人工知能)の「DeepSeek」関連の時代の変化を追い風とする可能性が評価されている。その中でも時価総額1000~5000億ドル銘柄が注目される。
【1000-5000億USDの有望米企業~次の時価総額1兆USD銘柄の候補を探す】
■GPIFの基本ポートフォリオ見直し
昨年末の運用資産260兆円の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2025年度に基本ポートフォリオ(資産構成割合)を見直す時期とされている。市場では日本国債の買い入れを増やすとの観測が高まっている。日本国債は日銀の追加利上げ観測を背景に利回りが上昇し、買い需要が見込まれる水準でもある。GPIFが年内にも財務省の国債入札に直接参加できるようになることも債券市場にはポジティブだろう。
国内債券の資産構成割合が上昇し、外国債券の割合が低下すれば、為替市場の円高要因になる可能性がある。足元の長期金利は幅広い年限で2008~2009年当時の水準まで上昇。当時は国内債券の割合が67%だった。構成割合は長期的に上昇する可能性がある。
【GPIFの基本ポートフォリオ見直し~今年3月で第4期中期目標期間終了】
■コロナ特需銘柄のグレートローテーション
新型コロナ禍の時に株価が高騰していたエムスリー(2413)とBASE(4477)は業績改善を反映して株価が底入れし、反発の兆しを見せている。エムスリーは新型コロナ対応の治験支援、BASEは巣ごもり消費を背景とした小規模事業者向けECプラットフォーム運営が、それぞれ時代の流れに乗り業績を押し上げた。その後はコロナ禍収束とともに特需の反動から業績が伸び悩み、株価も低迷した。
2020年のグロース銘柄は株価上昇基調にあり、東証グロース市場250指数(旧・東証マザーズ指数)は日経平均株価を上回るパフォーマンスだった。その後パフォーマンスが悪化した背景には、円安ドル高の影響もある。為替が円高方向へシフトしていることは、グロース銘柄への物色回帰の契機となる余地がある。
【コロナ特需銘柄のグレートローテーション~3年半から4年下落を経て、業績好転】
■銘柄ピックアップ
日清紡ホールディングス(3105) 895.6 円(2/21終値)
・1907年設立。無線・通信、マイクロデバイス、ブレーキ、精密機器、化学品、繊維、不動産、その他の事業セグメントで構成されるコングロマリット。「環境・エネルギーカンパニー」を目標に掲げる。
・2/12発表の2024/12通期は、売上高が前期比8.6%減の4947億円、営業利益が同33.1%増の165億円。事業別営業利益は、売上比率47%の無線・通信事業が同60%増の75億円、不動産事業が同108%増の177億円の一方、マイクロデバイス事業が赤字転落、マテリアル事業が同25%減。
・2025/12通期会社計画は、売上高が前期比2.3%増の5060億円、営業利益が同18.8%増の197億円、年間配当が同横ばいの36円。収益性向上の最優先課題として無線・通信事業の構造改革を挙げる中で、公共インフラや防衛関連の領域で傘下の日本無線Gと国際電気Gを擁する効果が見込まれる。事業の選択と集中によって、コングロマリット・ディスカウント解消と低PBR改善が期待される。
日本板硝子(5202)
387 円 (2/21終値)
・1918年に大阪市で設立された住友系ガラス専業メーカー。2006年に英ピルキントンを完全子会社化して世界展開。建築用ガラス事業、自動車用ガラス事業、高機能ガラス事業がコア製品分野。
・2/12発表の2025/3期9M(4‐12月)は、売上高が前年同期比2.8%増の6299億円、営業利益が同66.3%減の108億円。事業別営業利益は、売上比率51%の自動車用ガラス事業が同72%減の26億円、売上比率43%の建築用ガラス事業が同67%減の86億円。それぞれ欧州市場の低迷が響いた。
・通期会社計画は、売上高が前期比2.1%増の8500億円、営業利益が同55.4%減の160億円。自動車用ガラスを製造するドイツ子会社の人員削減で計上した退職関連費用もあり当期利益が▲160億円へ赤字転落見通し(前期106億円の黒字)。2/20終値PBRは0.38倍。売上に占める欧州の比率は建築用ガラス事業で34%、自動車用ガラス事業で41%。ウクライナ復興需要の恩恵が期待される。
ルネサスエレクトロニクス(6723)
2743.5 円(2/21終値)
・NEC(6701)から分社化したNECエレクトロニクスが2010年にルネサステクノロジーと合併して設立した半導体専業メーカー。車載制御など自動車向け事業、および産業・インフラ・IoT向け事業を営む。
・2/6発表の2024/12通期は、売上収益が前期比8.2%減の1兆3484億円、非GAAPの調整後営業利益が同20.7%減の3979億円。4Q(10-12月)は売上収益が同19%減の2926億円、調整後営業利益が同35%減の754億円(うち自動車が20%減の457億円、産業・インフラ・IoTが48%減の286億円)。
・2025/12期1Q(1-3月)会社計画は、調整後売上収益が前年同期比▲14.3.-▲10.0%の3015-3165億円、調整後粗利益率が同2.7ポイント低下の54.0%。同社は車載半導体市場で世界3位、車載マイコンで世界首位。「DeepSeekショック」後に低消費電力半導体への注目が高まる中、2/19に超低消費電力で堅牢なセキュリティー機能を備えたマイコンを発表。様々な分野での需要が期待される。
アルファポリス(9467)
1113 円 (2/21終値)
・2000年設立。同社運営の小説・漫画等の投稿サイトで公開されて人気のあるコンテンツを書籍化する事業モデルに特色。ライトノベル、漫画、文庫等のほか、TVドラマ化やTVアニメ化作品も輩出。
・2/13発表の2025/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比25.6%増の96.9億円、営業利益が同34.3%増の23.3億円。全国出版協会・出版科学研究所によると、2024年1-12月の推定全国販売金額は、紙の出版物が前年比5.2%減の1兆0056億円に対し、電子出版が同5.8%増の5660億円。
・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比26.8%増の131億円(従来計画116億円)、営業利益を同36.0%増の30.9億円(同25.1億円)、年間配当を同14円増配の14円(同11円)とした。同社IP(知的財産)として権利を有する書籍からTVアニメ化へのメディア展開が堅調に進んだ。東証グロース上場の同社はサンリオ(8136)の株価上昇に見られるキャラクターIP活用で出遅れ銘柄として注目される。
タイ石油開発公社(PTTEP)
市場:タイ 125.50 THB (2/20終値)
・1985年設立。国営のタイ石油公社(PTT)の子会社であり、タイ国内外の石油探鉱・生産のほか、海外のガスパイプライン輸送、政府エネルギー政策と戦略的に連携したプロジェクトへの投資を行う。
・2/3発表の2024/12期4Q(10-12月)は、パイプライン輸送からの売上高が前年同期比0.5%増の22.14億USD、石油価格変動に係るヘッジ取引損失など一時的要因を除く調整後純利益が同11.9%減の5.31億USD。販売価格が同10%下落も、国内外の鉱区権益の拡大により販売数量が同5%増。
・同社のエネルギー開発はタイを含む12ヵ国、50プロジェクトにおよんでいる。タイの一次エネルギー供給量のうち国内生産が占める割合は2022年で43%にとどまり、原油を中心に中東諸国やマレーシアからの輸入に頼っている。AI(人工知能)普及に向けたデータセンターおよび電気自動車(EV)向けの電力需要を賄うためには、海外でのエネルギー開発、鉱区権益拡大が一層求められるだろう。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(2/24号「インドネシアの学校給食無償プログラム)
インドネシア政府は1/6、学校給食の無償提供プログラムを開始した。同国では特に地方にいる乳幼児や妊産婦の栄養不良が社会課題となっており、この政策はプラボウォ大統領が主要政策の一つとして掲げていた。プログラム開始当日、全国38州のうち26州にサービスユニット190拠点を設け、60万人分の食事を提供したほか、ジャカルタでは41の学校に1万2000人分以上の給食が提供された。インドネシア国家栄養庁(BGN)は、「1日当たりの栄養所要量に応じた栄養価の高い食品の提供を通じて、学生や妊婦、授乳中の母親、5歳未満の子どもの栄養状態を改善することを目的とし、さらに、地元の農家や漁師、中小企業から食材を調達することで、地域の経済力を高めることも奨励する」と説明。インドフード・サクセス・マクムールなど飲食品の消費関連企業への追い風となりそうだ。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。