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SGXレポート11月ー半導体チップ関連企業の回復がシンガポールの製造業成長を過熱させる

 

原文:シンガポール証券取引所

公開日:2023年11月27日

翻訳作成日:2023年11月29日

■レポートサマリー

  • シンガポールの10月の工業生産指数(IP指数)は前年同月比(YoY)で4%上昇した。IPがYoYで拡大傾向を見せたのは2022年9月以来のことである。電子機器が回復を牽引しており、その増加はYoYで14.8%である。電子機器はシンガポールのIP指数において45%を占めており、また電子機器に属する半導体関連はIP指数の38.3%を占めている。

 

  • 株式市場において11月24日までの間に、11月中で最も高い機関投資家属性資金の純流入額を記録したのはテクノロジーセクターであり、その額は47百万SGDである。その一方でマーケット全体では750百万SGD以上の機関投資家属性資金の流出を記録している。Venture、Aztech Global、Francken、UMSなどは同期間において機関投資家属性資金の純流入額を記録した銘柄である。

 

  • 2023年を通して、半導体関連企業は過剰生産能力によってもたらされた半導体チップの過剰供給という問題を抱える一方で、2024年以降の人工知能(AI)アプリケーションによってさらに促進されるとみられる半導体および半導体サービスの潜在的な需要に備える必要があるという、対比構造をますます強くしている。シンガポールでは、世界的なAI 関連とされる産業サブグループに属するグローバル企業と取引関係にあるなどとされる複数のテクノロジー企業が上場している。

*このレポートはシンガポール取引所が発行した、経済見通しと市場、発行体に関するレポートを日本のフィリップ証券が翻訳して作成しています

11月24日、シンガポールの10月の工業生産指数(IP指数)の報告書によればIP指数はYoYで7.4%上昇した。IP指数がYoYで上昇を見せたのは2022年9月以来のことである。同報告書では、23年9月におけるIP指数の改定値の算出があり、速報値におけるYoYで2.1%の低下が事後的にYoY1.1%の上昇に修正された。10月において、IP指数における電子機器クラスタの推移はYoYで14.8%増の回復を見せている。電子機器クラスタはIP指数において全体の45.3%の比重を占めており、電子機器クラスタに属する半導体関連銘柄はIP指数全体において38.3%を占めている。電子機器クラスタは23年8月のYoYでの21.1%減から9月のYoYでの2.7%増へと転じ、10月の速報値ではYoYで14.8%増を記録した。2023年1月からの年初来から通算での電子機器クラスタの推移は4.6%の下落にある。IP指数全体では過去10ヶ月の下落は4.5%である。

2023年初来から11月24日までの間、シンガポールにおける製造業低迷はiエッジ・シンガポール・先端産業指数(iEdge SG Adv Manufacturing Index)のパフォーマンス低下にまで及んだ。同指数の年初来トータル・リターンは▲6.6%のとなり、2銘柄の上昇に対して3銘柄の割合で下落している計算になる。これはストレーツ・タイム指数(STI)の年初来トータル・リターンが横ばいであったのとは対照的であった。iエッジ・シンガポール・先端産業指数において構成比重の大きい 10 銘柄のうち、ST Engineering、Yangzijiang Shipbuilding は、それぞれ +17%と+13%のトータル・リターンを記録して全体的な下落トレンドに逆行した一方で、SATS、Keppel Infrastructure Trust、Emperador はわずかなプラスのリターンを記録した。NIO、Seatrium、ベンチャー・コーポレーションは10大ウエイトの中で下落トレンドをリードし、これら銘柄の年初来トータルリターンは平均して23%の下落であった。

シンガポールのテクノロジー株式

Venture Corporationはシンガポールのテクノロジーセクターで最も取引されている銘柄でもあり、1日の売買取引高は1900万シンガポールドル近くに達する。11月3日、ベンチャー・コーポレーションは、軟調となった顧客需要と在庫削減の進行などを主な理由に、23年決算における3四半期累積(23年9M)の売上高が昨年の高水準に比して減少したと発表した。同社は今後、高成長を続ける新たな技術領域への参入を拡大する意向を示し、既存および新規顧客に向けた新製品導入が来年には軌道に乗ると付け加えた。

2023年11月24日までのシンガポールで最も取引されたテクノロジーセクター15銘柄は以下の通りである。

■11月最も多く取引されたSGXに上場する最先端15社

企業名 SGX
証券コード
時価総額 日次平均
売買代金
11月

月初来
リターン

月次
機関投資家
属性資金
純流入額
四半期
トータルリターン
年初来

トータル

リターン

年初来
機関投資家
属性資金
純流入額
(百万SGD) (百万SGD) (%) (百万SGD) (%) (%) (百万SGD)
Venture V03 3,721 18.53 9 33.3 4 -21 -256.6
IFAST AIY 2,309 2.21 19 17.8 39 35 38.1
Aztech Gbl 8AZ 722 0.64 4 3 16 19 -1.4
Frencken E28 483 4.43 9 2.2 1 24 12.1
UMS 558 845 5.93 1 1.7 -2 11 59
ISDN I07 152 0.78 5 0.1 -7 -20 -0.4
Silverlake Axis 5CP 678 0.18 2 0.1 4 -23 -5.9
Totm Tech 42F 50 0.19 -5 0 -21 -61 -2.9
Sinocloud Grp LYY 4 0.09 12 0 -18 -82 -0.2
Creative C76 108 0.07 6 0 -9 8 -0.1
Grand Venture JLB 171 0.07 3 -0.1 -12 1 -1.3
CSE Global 544 264 0.52 5 -0.9 -5 36 1.7
Valuetronics BN2 226 0.14 12 -1.8 7 14 -1.3
Nanofilm MZH 573 3.8 -5 -3.8 -6 -36 -24.5
AEM SGD AWX 1,047 5.87 -2 -4.6 -1 0 37.2
平均値 5 -1 -6
中央値 5 -2 1
合計 11,353 43 47 -146

引用元:シンガポール証券取引所(SGX)(2023年11月24日の価格に基づく)

*参考レート:1シンガポールドル=111円

11月24日(金)に、ベンチャー・コーポレーションの株式は1株当たり12.81 SGDで取引を終えた。Refinitivが集計した同社の現在の目標価格のコンセンサス値は14.872 SGDである。Refinitivのコンセンサス値は、その銘柄の複数のカバレッジ・アナリストの予想の平均値であり、今後18ヶ月間の企業業績に対するアナリストの見解を示すものである。同社の5年平均のPBRは1.9倍であるのに対して、現在はPBR1.3倍のトレンドで推移している。

11月24日までの1ヵ月間でシンガポールのテクノロジー・セクターの機関投資家純資金流入額4,700万SGDに上り、これを牽引したのはVenture Corporation、iFAST Corporation、Aztech Global、Frenken Group、UMS Holdingsなどである。iFAST Corporationは10月25日、シンガポールと香港の事業業績に牽引されて、23年3Qの純利益がYoYで308%増の850万シンガポールドルに急増したと発表した。これと同時に11月21日にiFAST Global Hubと呼ばれる新たな拠点をマレーシアに開設することを明らかにした。Aztech Globalは10月16日、IoT機器とデータ通信製品の売上の好調な売上に牽引されて、23年3Qの売上がYoYで17%増の2億8,300万シンガポールドルになったと発表した。Frencken Groupは11月22日、23年3Qの売上高はYoYで6%減の1億8,400万SGDとなったとことを報告した。同社は23年の下半期の会社予想について、主に欧州での売上増とアジアでの安定した売上により、半導体部門が増収となる見込みであることを述べた。UMS Holdingsの23年3Q決算は純利益がYoYで32%増の1,500万SGDとなり売上高は7,100万SGDとなったものの、23年2Qの業績からは前四半期比(QoQ)で4%減の純利益となった。

 

2024年以降のAIの躍進とその先の見通し

2023年を通して、半導体関連企業は過剰生産能力によってもたらされた半導体チップの過剰供給という問題を抱える一方で、2024年以降の人工知能(AI)アプリケーションによってさらに促進されるとみられる半導体および半導体サービスの潜在的な需要に備える必要があるという、対比構造をますます強くしている。iエッジ・人工知能40指数 (iEdge AI 40 Index)を構成するハードウェア、産業アプリケーション、ソフトウェアといったサブ産業グループに属するグローバル先端企業と取引関係にあるなどして近い距離にある複数の企業がSGXに上場している。

 

調査会社であるガートナー社による発言を4月までさかのぼると、「メモリー業界は過剰生産能力と過剰在庫に対処しており、2023年も平均販売価格を大きく圧迫するだろう」としていたことが思い出される。同社は、「2023年のメモリー市場規模は923億ドルで、前年比で35.5%減少すると予測されるが、2024年には70%増加し、回復するペースにある」と指摘した。

 

SEMI(国際半導体製造材料協会)によると、2024年の半導体回復は2026年まで続き、AI、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)、5G、車載および産業用アプリケーションをサポートするシリコン需要の増加に伴い、ウェーハ出荷が過去最高を更新する見込みである。各国に拠点を置く半導体協会の大多数が、2030年には半導体販売高が1兆USD近辺になると予測しており、この数字は米SIA(米国半導体協会)によって2022年に推計された5,750 億USDの半導体販売高予想から大幅に上方修正された。米Applied Materialsは23年3Q決算のプレゼンテーションで、IoT とAIの時代が到来しており、この分野が半導体業界の成長と革新の新しい波を牽引していると指摘している。

 

AEMホールディングスはTest 2.0と呼ばれる半導体製造における検査プロセスにおける新技術の開発に投資を続けてきた。その結果、AEMホールディングスは23年度第3四半期に熱処理に関する追加特許を取得した。同社が契約関係にある顧客の大半は、HPCやAIで使用される高性能な最先端半導体製造に対応した検査要件を満たす次世代技術に関連している。同社の見通しでは、今年初めに特にデータセンター分野で勢いを増した生成AIの波は、エッジコンピューティング・デバイスへの需要にまで拡大しており、これらの最先端半導体や最新デバイスはトランジスタ数が従来製品くらべ急増し、半導体設計もより複雑になることを指摘している。最先端半導体やデバイスが要求する製造検査は複雑さがより増し、テスト時間も長期化するためAEMのTest 2.0に対する長期的な追い風になると、同社は述べている。時期としては、先端半導体市場に対するテストソリューションに対して見込まれている需要増が、2024年末から2025年にかけて現実のものとなると予想していると同社は述べた。

 

UMSホールディングスは同社の今後の業績について、新たな技術革新とAIブームから恩恵を受ける半導体分野と、世界的な航空旅行が力強い回復トレンドを続ける中での航空宇宙分野という、2のトレンドによって同社の成長エンジンがもたらされると主張している。同社の新しい生産施設がマレーシアのペナンに完成したことで、新たな成長機会を獲得する態勢が整ったとの見解を示した。

デロイトの調査によれば、生成AIには「市場調査やメモ取りから顧客サポート強化まで、あらゆる業界にわたる多様な用途がある」とし、「資産管理におけるパーソナライズされたファイナンシャル・プランニング、ヘルスケアにおける医療診断、メディアやエンターテインメントにおける没入感のある世界や体験の創造、小売業における衣装のキュレーションなど、さまざまな分野で具体的な使用例が確認されている」と主張している。

Silverlake Axisは、AIと機械学習技術が銀行部門で広く利用され、定型業務の自動化と顧客体験の向上に役立っていると主張しており、新しくリリースされる「CloudLink」によってこれらのソリューションを提供するとしている。Silverlake Axisはマレーシアを拠点とするASEAN銀行向けソフトウェア・サービスのプロバイダーであり、ASEANの大手銀行20行の40%に対してサービスを提供している。

今年の売買出来高上位150社のランク外となった企業に話を移すと、グランド・ベンチャー・テクノロジー(GVT)が11月15日に発表した23年3Qにおける9ヶ月の累積売上高は、22年9月期比18%減の8,240万シンガポールドルとなった。減収の主要因は後工程半導体部門とエレクトロニクス部門の事業活動の減少によるものとされている。GVTは、SGXの中小型上場企業へのリサーチ業務のカバレッジを拡大するための人材を育成することを目的とした研究人材育成助成金制度による助成の下で、DBSグループによるリサーチのカバレッジ対象となっている。DBSグループ・リサーチの最新レポートでは、GVTの半導体出荷のYoYでの減少幅は2023年5月以降徐々に縮小しており、対前月比(MoM)での変化は2023年3月以降プラスに転じていると指摘している。同レポートではさらに、在庫調整の一巡、AIおよびHPCなどにより牽引される半導体出荷の上昇トレンドが今後予想されると指摘している。GVTはまた、2024年以降、半導体市況は緩やかに改善し、2024年後半にはAIおよび高性能コンピューティングの革新に向けた世界的な半導体需要が高まり、それに追随する在庫補充の必要性によって顕著な上昇に転じると慎重ながらも楽観視している旨を伝えている。

 

 

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笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

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