シンガポール銀行レポート11月① -資金運用収益(NII)の上昇を阻む引当金の増加
PSR(フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ)による各行のレーティング
DBSグループ・ホールディングス | ||||
買い(継続) | ||||
ブルームバーグコード | DBS SP | |||
最終取引値(11/9) | 33.17 SGD | |||
予想配当額 | 1.86 SGD | |||
目標株価(PSR) | 41.60 SGD | |||
配当利回り | 5.61 % | |||
トータルリターン | 31.02 % | |||
オーバーシー・チャイニーズ銀行(OCBC) | ||||
買い(継続) | ||||
ブルームバーグコード | OCBC SP | |||
最終取引値(11/9) | 12.97 SGD | |||
予想配当額 | 0.85 SGD | |||
目標株価(PSR) | 14.96 SGD | |||
配当利回り | 6.55 % | |||
トータルリターン | 21.90 % | |||
ユナイテッド・オーバーシー銀行(UOB) | ||||
買い(継続) | ||||
ブルームバーグコード | UOB SP | |||
最終取引値(11/9) | 27.40 SGD | |||
予想配当額 | 1.75 SGD | |||
目標株価(PSR) | 35.90 SGD | |||
配当利回り | 6.39 % | |||
トータルリターン | 37.41 % |
*参考レート:1SGD = 111 JPY
【レポートサマリー】
- 11月の3ヶ月複利シンガポールオーバーナイト金利平均(SORA)は前月比(MoM)で2bps上昇の72%となり、23年3Q平均値3.69%よりも3bps高い。3ヶ月複利の香港銀行間貸出金利(HIBOR)はMoMで27bps上昇の5.22%となった。
- 23年3Qのシンガポール地場銀行各行の利益は予想を僅かに上回った。資金運用収益(NII)が前年同期比(YoY)で平均14%上昇したことにより、税引き後少数持ち分調整後純利益(PATMI)は平均15%上昇した。純金利マージン(NIM)が次の四半期までに10-2.25%で推移し、年間を通じて融資額成長が一桁台半ば%を維持するという、我々の23年通期予想を維持する。
- シンガポール国内融資額は9月にYoYで1%減少し、我々の予想を下回った。融資額の減少は前月よりも緩やかになり、預金当座比率(CASA)は8月の18.8%から僅かに上昇して18.9%となった。
- オーバーウェイトを継続:シンガポール地場銀行に対するポジティブな見通しを継続。配当利回りは平均7%と魅力的であり、ROEを高めるべく過剰資本の是正が行われれば配当によるサプライズが期待できる。SGXも同じく高い金利環境の恩恵を受ける企業とみている(SGX SP:買い、目標株価 11.71 SGD)
3ヶ月複利SORA推移はフラット化、3ヶ月HIBORは上昇
シンガポールの市中金利は10月に漸進的な上昇を見せた。3ヶ月複利シンガポールオーバーナイト金利平均(SORA)は前月比(MoM)2bps上昇の3.72%となり、23年3Q中のSORA平均値3.69%を上回った。
香港の市中金利は上昇に転じ、過去2カ月の下落を逆転させる以上の動きを見せた。10月の3ヶ月複利香港銀行間貸出金利(HIBOR)はMoMで27bps上昇し5.22%となったが、これは8月と9月における合計15bpsの下落幅を上回っており、23年中で最も高い金利水準である。前年同期比(YoY)では126bps上昇し、23年3Q中の平均5.01%を上回っている(図1)。
【図1】:10月においてSORA推移はフラット化、HIBORは上昇した
引用: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)
シンガポールの融資額成長率は低下を続けている
全通貨建てを含むシンガポール国内居住者向け融資総額は9月においてYoYで6.10%減少して7,880億SGDとなり、2023年を通して一桁台前半パーセンテージでの成長を続けるとした弊社の予想を下回るものである。その原因は金利上昇が消費者へ浸透してきたことによるものである。
事業者向け融資額は9月にYoYで8.55%減少した。単独で最も大きいセグメントである建築事業向け融資額はYoYで1.76%減少して1,680億SGD、製造業向け融資額は19.19%減少の218億SGDとなった。
消費者向け融資額の70%を占める住宅ローン成長率は9月にYoYで1.09%増加の2,240億SGDとなった。この成長は消費者向け融資の他セグメントの減少を幾分相殺するものとなり、消費者向けの全セグメント融資総額は9月にYoYで2.05%減少となり3,100億SGDとなった。
ノンバンク顧客による全通貨建てを対象とした預金総額は9月にYoYで2.29%増加して1兆7,840億SGDとなった。全預金に占める当座預金比率(CASA比率)は僅かに上昇して9月に18.9%(8月18.8%)となり、当座預金総額は3,380億SGDとなった。
【図2】: シンガポール国内融資成長率(YoY)推移
融資額成長率(YoY) | |
2023年9月 | -6.10% |
2023年8月 | -6.71% |
2023年7月 | -6.15% |
2023年6月 | -5.02% |
2023年5月 | -4.88% |
2023年4月 | -5.86% |
2023年3月 | -3.98% |
2023年2月 | -3.10% |
2023年1月 | -1.89% |
引用: CEIC, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)
香港の融資額成長率は引き続き低下した
香港国内向け融資額は9月にYoYで4.89%の減少、MoMでは0.91%の減少となった。これは23年8月に見られたYoYで4.46%減少とMoMで0.28%の減少よりもさらに急な減少となった。
【図3】:10月においてSORA推移はフラット化、HIBORは上昇した
引用: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)
市場のボラティリティは低下も、中国経済見通しを憂慮して以前高い水準に
株式の日次平均売買代金(SDAV)速報値はYoYで22%減少して8億9,700万SGDとなったが、これは過去5か月で2番目に大きい減少である。その一方でデリバティブ日次平均出来高(DDAV)は10月にYoYで13%減、MoMでは横這いの107万枚となった。S&P500を原資産とするVIXは10月に平均して18.9となっており、9月の15.2よりも上昇した。これは2023年3月から起算して最も高い水準である。
株価指数先物取引高上位4銘柄の10月の取引高は、YoYで15.1%減の1,070万枚となったが、これはFTSE中国A50指数先物とMSCIシンガポール指数先物の取引高減少によるものである。特筆すべきはFTSE台湾指数先物の取引高が10月にMoMで16.7%上昇した一方、日経225指数先物は同月にMoMで3.9%減少した。
【図4】:デリバティブ出来高と株式売買代金の前年比推移
株式
日次平均売買代金 (百万USD) |
YoY | デリバティブ
日次平均取引高 (百万枚) |
YoY | |
2023年10月 | 897 | -22% | 1.07 | -13% |
2023年9月 | 867 | -26% | 1.07 | 3% |
2023年8月 | 1,061 | -4% | 1.04 | 13% |
2023年7月 | 1,014 | 13% | 0.98 | -1% |
2023年6月 | 1,174 | 1% | 1.03 | -6% |
2023年5月 | 1,032 | -31% | 0.98 | -13% |
2023年4月 | 969 | -24% | 0.96 | -12% |
2023年3月 | 1,216 | -22% | 1.04 | -11% |
2023年2月 | 1,105 | -33% | 1.01 | -5% |
2023年1月 | 1,159 | -4% | 1.08 | +6% |
2022年12月 | 935 | 10% | 0.92 | +8% |
2022年11月 | 1,239 | -8% | 1.09 | +27% |
引用:シンガポール取引所(SGX), ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)
【図5】: 株価指数先物の取引高上位4銘柄は前年同期比(YoY)で低下した
株式指数 (単位枚数) | 22年10月 | 23年10月 | YoY 増減 |
FTSE China A50 Index Futures | 8,414,341 | 6,973,240 | -17.1% |
Nikkei 225 Index Futures | 1,170,690 | 1,000,547 | -14.5% |
MSCI Singapore Index Futures | 1,443,887 | 1,202,796 | -16.7% |
FTSE Taiwan Index Futures | 1,578,364 | 1,522,103 | -3.6% |
各部合計 | 12,607,282 | 10,698,686 | -15.1% |
引用:シンガポール取引所(SGX), ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)
投資行動に対する示唆
オーバーウェイトを継続:我々はシンガポール地場銀行に対するポジティブな見方を継続する。各行の配当利回りは魅力的な水準にあり、ROE上昇に向けて過剰資本を是正する動きがあれば、配当による上方サプライズが期待できる。安定した経済情勢と金利上昇は銀行セクターに対する追い風となっている。シンガポール証券取引所(SGX)も金利上昇からの恩恵を受ける企業の一つであると我々は見ている。
【図5】: 地場銀行3行の過去PBR推移
引用: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)
【図6】: 地場銀行各行の目標PBR
DBS | OCBC | UOB | |
最大PBR(倍) | 1.62 | 1.50 | 1.43 |
最小PBR(倍) | 0.81 | 0.73 | 0.79 |
5ヵ年平均PBR(倍) | 1.17 | 1.09 | 1.12 |
直近PBR(倍) | 1.34 | 1.02 | 0.97 |
目標PBR(倍) | 1.36 | 1.27 | 1.17 |
目標株価(SGD) | 41.60 | 14.96 | 35.70 |
引用: ブルームバーグ, フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(PSR)
*参考レート:1 SGD = 111 JPY
【図7】 : アジア競合金融機関比較
*参考レート1SGD=111円
引用:ブルームバーグ・フィリップ・セキュリティーズ・リサーチ(23年11月9日の株価に基づく)
- 上場有価証券等のお取引の手数料は、国内株式の場合は約定代金に対して上限1.265%(消費税込)(ただし、最低手数料2,200円(消費税込)、外国取引の場合は円換算後の現地約定代金(円換算後の現地約定代金とは、現地における約定代金を当社が定める適用為替レートにより円に換算した金額をいいます。)の最大1.10%(消費税込)(ただし、対面販売の場合、3,300円に満たない場合は3,300円、コールセンターの場合、1,980円に満たない場合は1,980円)となります。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。