FX取引では外国の指標や指数、または通貨の名称など普段の生活の中ではあまり耳にしないようなワードが多く聞かれます。
そこでこの記事では、FX、MT5関連キーワードを紹介し、内容の理解を深めていただくとともに、お取引に役立てていただけるようまとめています。
この記事から分かること
NFP(米国非農業部門雇用者数)は、米国労働統計局が発表するアメリカを代表する経済指標の一つです。
文字の通り、農業を除いた米企業の雇用者数を示す指標で、自営業や経営者は含まれません。
農業は、景気には関係ない季節などの影響で一時的なアルバイト等の雇用が発生することから、NFPから外れています。
NFPは、第一金曜日の22時30分(夏時間は21時30分)に発表され、為替や株価の値動きに大きな影響を与えます。
米国の失業率や平均時給など計10項目も同時に発表され、一括りで米国雇用統計とも呼ばれています。
中でも注目度が高いのがNFPで、機関投資家のみならず個人投資家も毎月の発表を注視しています。
NFPは、米経済の動向を顕著に示すことが注目される大きな理由です。
米国は世界トップの経済大国であり、米経済の動向は世界経済にも大きな影響を与えます。
米国労働統計局は、事業所の給与支払い帳簿を基に就業者数を算出します。
非農業部の総給与は米GDP全体の約80%を占めているため、NFPが米経済の現状を判断する重要な材料となるのです。
また、NFPはアメリカの中央銀行であるFRBが重要視する指標でもあります。
FRB最大の役割は物価の安定と雇用の最大化ですが、NFPの結果はFRBが実施する今後の金融政策の方針を左右する材料にもなります。
以下では、NFP発表前とNFP発表後の相場傾向や取引におけるポイントを解説します。
NFP発表前の為替相場は、流動性が低下する傾向にあります。
NFP発表の日付や時刻は事前に分かっているため、発表前の金融市場は目立った動きが見られないことが多いです。
リスク回避として様子見ムードになりやすく、投資家はポジションを減らします。
流動性の低下からスプレッドの拡大を招きやすく、取引が難しいとされる時間帯です。
ただし、発表前の値動きが緩やかになるのは、あくまでも傾向であり絶対ではありません。
突発的なニュース等の影響で、NFP発表前でも大きく相場が動く可能性もあります。
NFP発表の直後は、金融市場全体で大きな値動きを見せるケースが多いです。
前回発表時の就業者数に比べて、増加しているか、減少しているかに注目が集まります。
就業者数が増加していれば景気回復の安堵、減少していれば景気悪化の失望に繋がりやすいです。
また、事前に打ち出される市場予想によっても大きく変化します。
NFPのような重要指標は、発表前に金融機関のアナリストや専門家による市場予想が出ます。
仮に、前回発表時から就業者数が増加している場合でも、市場予想を下回っている場合は、失望から米ドル売りや株価の下落を招きやすいです。
反対に、市場予想を上回る結果になれば、投資家達の間で期待感が高まり米ドル・米国株ともに買いが集中する傾向にあります。
予想と同等の結果であれば、極端に大きな動きは見せずに終わることもあります。
市場予想と比較したNFPの結果に、サプライズ感があるかどうかで市場の反応は大きく変わるのです。
ただし、直近では米金利の動向に注目が集まっていることもあり、米消費者物価指数(CPI)やFOMCでの政策金利発表時に比べると、発表後の値動きがそれほど大きくならないというケースもあります。
次に、NFPに関するよくある質問について解説します。
ADPは、NFP発表二日前の水曜日(祝日の場合は前日の木曜)に発表される経済指標です。
非農業部門雇用者数や失業率の先行指標ですが、NFPに比べて正確性が低い指標とも言われています。
NFPは米国労働統計局という政府機関が調査するのに対し、ADPは民間企業であるADP(Automatic Data Processing)社が調査を行います。
また、ADPの調査対象は給与計算を外注できる大企業に偏っているとの指摘もあります。
NFPは全米の3分の1をカバーしており、12万もの企業や63万ヵ所の事業を対象に調査を行いますが、ADPは全米の雇用者5分の1ほどしかカバーできていません。
ADPに比べNFPは、標本が大きく正確性が高いとされており、ADPとの乖離が大きくなるケースも多いです。
ADPで雇用者数が増加していると発表されたにも関わらず、NFPでは雇用者数が減少しているといったこともあります。
過去20年のNFP推移は以下の通りです。
年 | NFP の年間平均 (万人) |
---|---|
2004年 | 17.0 |
2005年 | 21.1 |
2006年 | 17.4 |
2007年 | 9.5 |
2008年 | -29.6 |
2009年 | -42.0 |
2010年 | 8.6 |
2011年 | 17.2 |
2012年 | 18.1 |
2013年 | 19.1 |
2014年 | 25.0 |
2015年 | 22.6 |
2016年 | 19.4 |
2017年 | 17.6 |
2018年 | 19.0 |
2019年 | 16.6 |
2020年 | -77.3 |
2021年 | 60.4 |
2022年 | 37.7 |
2023年 | 25.1 |
2024年5月時点 | 24.6 |
2008年〜2009年はリーマンショックの世界的な金融危機が影響し、雇用者数が大幅に減少しました。
2010年以降は緩やかに回復し、2014年までにはリーマンショック時に失った雇用数を回復させています。
その後、2020年にはコロナウィルスの影響もあり、雇用者数が-77.3万人と大幅な減少となりました。
2021年には過去最大となる60.4万人の回復を見せ、2024年現在に至るまでの伸びは鈍化傾向です。
アメリカの平均時給は2024年4月の発表時点で約5,100円(約34ドル)と非常に高い水準です。(2011年の平均時給は約22ドル)
この賃金上昇の背景には、物価高騰の影響があります。
2020年のコロナショック以降、アメリカでは記録的な物価上昇が続き、それに伴って賃金も上がっています。
また、アメリカ経済の強さも賃金上昇の一因です。
アメリカにはGoogleやAppleといった世界を代表する大手企業が多く集まっており、その経済力が反映されています。
代表的な株価指数であるS&P株価指数は、2004年1月から2024年5月までの約20年間で約400%も上昇し、高値を更新中です。
このような経済の強さは、企業の業績向上につながり、結果として労働者の需要が増加しています。
優秀な人材を確保するため、企業は賃金を引き上げているのです。
アメリカでは現在、深刻な労働者不足が懸念されています。
労働者不足となっている主な要因は以下の通りです。
要因 | 詳細 |
---|---|
人口動態の変化 | 第二次世界大戦の終結直後に出生率が上昇した時期(ベビーブーマー世代)の退職による労働人口の減少。 |
パンデミックの影響 | 新型コロナのパンデミックにより、多くの労働者が早期退職や休業を選択し、復職が遅れている。後遺症に悩まされ復職できないケースも。 |
労働条件の改善要求 | 深刻なインフレにより、より良い労働条件や賃金を求める労働者が急増。 |
移民政策の変化 | トランプ大統領政権下で厳格下された移民制限により、外国人労働者の流入が減少。 |
これらの要因が複合的に絡み合い、米国での労働者不足を引き起こしています。
人材確保のために企業が積極的に賃金を上げており、前述した平均時給の高さにもつながっています。
アメリカでは、特に以下の分野で人手不足が深刻です。
職種 | 詳細 |
---|---|
医療・介護 | 65歳以上が総人口に占める割合の増加が進む高齢化や、コロナでの需要増加が要因。 |
IT・技術職 | IT・AI市場の急速な発展による需要増加も技術者の数が頭打ちの現状。 |
建設業 | インフラ投資の増加と若年層の職業選択の変化による人手不足。 |
物流・運輸 | オンラインショッピング需要の増加と労働条件の厳しさが背景。 |
教育 | 賃金や労働条件の問題から、科学、技術、工学、数学部門での人手が不足。 |
これらの職業では、需要に対して供給が追いつかないため、人手不足が深刻化しています。
NFPは、米国だけでなく、世界中の投資家が動向に注目する重要な経済指標です。
経済大国トップである米国の経済は、世界の経済にも大きな影響を与えます。
発表される毎月第一金曜日は、投資家の間で緊張が高まる日でもあると言えるでしょう。
現在は、深刻なインフレを抑制するために高金利政策が継続していますが、金利上昇による経済悪化は大きな懸念材料です。
毎月発表されるNFPに注目して、最新の米国経済の動向をチェックしておきましょう。