移動平均線というテクニカル分析は、テクニカル分析の基本であると考えています。世の中ではたくさんのテクニカル分析が考え出されていますが、その大半は公式の中で『平均』という作業が行われています。平均するという作業は、テクニカル分析がどのような形状になって売買シグナルを発していくのかに影響を与え、それぞれの分析手法の特徴にもつながっていきます。故に、移動平均線を使いこなすことが出来るようになれば、テクニカル分析の達人に一歩近づいたと言っても過言ではないと考えています。
ということで、今回は移動平均線の章の最後として、移動平均線の工夫について紹介したいと思います。
下図を見てください
これは価格の動きと短期および長期の移動平均線の動きを示したものです。概ね、価格と長短両移動平均線というのはこのような動きをします。ここでは、底値を形成する場合を注目してください。底値を付けるのですから、価格が一番下に位置しています。底値を付けたときの両移動平均線の位置を確認すると、価格の上に短期の移動平均線、そして、短期の移動平均線の上には長期の移動平均線が位置しています。
そこで、このような底値を形成する通貨を買う場合、どこでエントリーをすればいいのかを考えたみたいと思います。つまり、どこで買うとリスクを少なく上昇を狙えるか、ということです。
特に、価格と長短両移動平均線の位置関係で考えてみたいと思います。
まず、価格が変動する限り、価格と長短両移動平均線の位置関係は4つに分類されます。
この4つのパターンのうち、どこで買うと上昇期待を持てるのでしょうか。
まず、A点の位置ですが、これは高値を示現した後に価格が下落し、すぐ真下に位置する短期の移動平均線を割り込むことによって生じる位置です。これは天井が形成された際に生じることが多いパターンです。故に、『買う』ということに関して、ここのポイントが向いているとは言えません。
次に、B点を考えてみましょう。B点は底値の位置です。ここは誰もが買いたい価格だと思います。しかし、底値と言うのは過ぎてからわかるもので、底値を付けた瞬間というのは誰にもそれが底値だとわかりません。また、底値だと思っても購入したまではいいのですが、下落トレンドが続いており買値を大きく下回るということもよくあることです。ですので、価格が両移動平均線の下方に位置にあるというのも安心できません。
では、D点はいかがでしょうか。底値をつけて上昇し両移動平均線を超えてきたところです。しかも、上図においては買いシグナルとされるゴールデンクロスの手前の状態にもなっています。たしかに、この後に上昇する可能性はあります。しかし、値動きを考えてみてください。天井を形成する時の価格というのは、両移動平均線の上方に位置しています。つまり、両移動平均線の上方に価格がある時というのは、値を下げてくる可能性があるということになるのです。
それでは、C点はいかがですか。C点の位置というのは、短期の移動平均線よりも上、長期の移動平均線よりも下の位置になります。この位置は、底値をつけた価格が上昇に転じ、すぐ真上に位置している短期の移動平均線を超えてきた位置となります。ということは、出直りから上昇していくのであれば、通過していかなくてはならない場所であると考えることが出来るのではないでしょうか。
そうなのです、このC点の位置こそ底値を打って出直って上昇していく可能性を示唆している場所になるのです。
価格と長短両移動平均線の位置を考えた場合、価格が短期の移動平均線よりも上、長期の移動平均線よりも下の位置にある時が、出直りから反発上昇に転じる可能性が高い、ということを説明しました。
筆者はこの位置のことを『IPゾーン』と名付け、投資を考えてもよい場所(ゾーン)である、と言っています。
下図を見てください。10日の移動平均線と20日の移動平均線を表示していますが、赤い矢印で示した箇所が、IPゾーンとなります。その後、上昇しているのがわかります。
ただ、短期の移動平均線よりも上、長期の移動平均線よりも下の位置に価格が入れば、何でもIPゾーンとなり、上昇する確率が高いといえる、というものではありません。
テクニカル分析に『100%』、『絶対』というものはありません。
ですが、いかに確率を高めるかの努力は惜しんではいけません。そこで、筆者の経験測を含めて、確度を上げていく工夫も紹介したいと思います。
まず、日足よりも週足で用いた方がIPゾーンでの勝率は高いと考えています。その際に使用する長短両移動平均線のパラメーターは26週と52週が良いと思います。つまり、26週の移動平均線が短期、52週の移動平均線が長期となります。
次にIPゾーンに価格が入った際の短期の移動平均線の方向性も考慮します。つまり、移動平均線が横這いから上向きになっているのであれば、下げ止まりから上昇に転じたと判断できるのです。換言すれば、IPゾーンに入っても、短期の移動平均線が右肩下がりの状態である時には下落トレンドがまだ続いている可能性があるのでトレードは行いません。
上図を見てください。矢印をした箇所はIPゾーンです。ただし、IPゾーンに入ったとしても、青い矢印で示した箇所は短期の移動平均線が右肩下がりとなっており、下落トレンドを示しています。ですので、いくらIPゾーンに入っていたとしてもトレードしません。
ところが、赤い矢印の箇所は短期の移動平均線が上向きとなり、トレンドが上昇に転じたことを示しています。故に、その段階でトレードすることになるのです。
なお、IPゾーンで購入しても、終値で短期の移動平均線を割り込み、IPゾーンの下方に下落した場合はロスカットすることをお勧めします。
IPゾーンというのは、底値で購入することは出来なくても、底値から出直り、上昇が見込める確率の高い通貨を見つける、ということに適していると考えています。
川口 一晃(オフィスKAZ代表取締役)
1986 年銀行系証券会社に入社。銀行系投資顧問や国内投信会社で11年間ファンドマネージャーを務める。
2004年10月に独立してオフィスKAZ 代表取締役に就任。