前号では移動平均線を使った売買シグナル、ゴールデンクロス(以下、GC)とデッドクロス(以下、DC)を紹介しました。テクニカル分析を勉強し始めた際におそらく一番始めに学ぶ売買シグナルと思います。しかし、せっかくの売買シグナルもトレンドがはっきり大きく出現しないケースでは外れることがある、という話も紹介しました。つまり、『ダマシ』が生じるということです。そして、通常、ダマシはダマシのまま、素通りしてしまうことが多いのですが、ダマシがなぜ生じるのかを考えることによって、創意工夫にもつながり、テクニカル分析の理解が深まると筆者は考えています。
そこで、今回は、『なぜ、ダマシが生じるのか』、『ダマシを生じないようにするための工夫はあるのか』から考えてみたいと思います。それが、投資家として一つの階段を登ることに繋がるのではないと考えているからです。
筆者は、ダマシが生じる理由の一つは『パラメーター』にあると考えています。例えば、日足を使ったGCとDCの場合、そのパラメーターは10日と20日の組み合わせ、ないしは5日など、5で割り切れる数字を用いているケースがほとんどだと思います。と同事に、どの通貨に対しても、また株式の場合にはどの銘柄に対しても常に同じパラメーターの組み合わせで分析する人が多いと思います。
しかし、それぞれの通貨はそれぞれ違う動きしています。そうであるならば、個々の分析に適したパラメーターの組み合わせが、個々に存在していると考えるのが妥当ではないでしょうか。そうなのです、各通貨によって、GCとDCの最適なパラメーターの組み合わせが存在している可能性があるのです。ですから、常に同じ組み合わせで分析していると、ドル円では適応していたけれども、豪ドル円では合っていないということになるのです。つまり、ダマシに遭うということが生じてしまうのです。
そこで、以下の表をご覧ください。
(出所:オフィスKAZ作成)
ここでは、ドル円の過去1年間の日足のデータを使って計算した結果を載せていますが、これによると、この1年間では短期の移動平均線のパラメーターは9日、長期の移動平均線のそれは10日にした場合の実現益が20.2円となっており、計算した中では最高の成績であることを示しています。
しかし、勝率を見ると50%となっていることもわかります。つまり、売買シグナルが2回に1回しか的中しなかったということを示しているのです。(もちろん、この先の未来も適合することを保証したものではないことに注意をしてください)。
では、短期のパラメーターを7日、長期を15日の組み合わせにするとどうなるのでしょうか。実現益は16.1円に落ちますが、勝率が70%に上昇することがわかります。
ここでどの組み合わせを選ぶかは個人の好みの問題とはなりますが、勝率、つまりは的中率をある程度は上げながら、実現益を上げていくということを考えても、いくつかの選択肢があるということは言えるのです。決して、普段、お決まりのように使っている10日と20日の組み合わせがベストではないということがわかります。それはこの表においてベスト10に入っていないことからも明らかです。
ここで一つの結論が出たと思います。パラメーターの最適な組み合わせというのは、自分たちが普段使っている組み合わせと違うことがあるのだということなのです。
この図はドル円の日足に短期のパラメーターを7日、長期のパラメーターを15日にした移動平均線を加えたものです。
パラメーターの数字というのは教科書で使われている数字に固執することなく、積極的に変えてもよいケースがあるということになります。
では、そのパラメーターの数字をここで少し考えてみましょう。
上図を見てください。これはドル円の日足と10日の移動平均線を表示したものです。
そして、ここで移動平均線の特徴を思い出してください。
移動平均線の特徴に一つに、『移動平均線が示している方向にトレンドが出ている』というのがありました。
図の中の矢印で示した方向と移動平均線の形状を見ると、確かに移動平均線がトレンドを示しているのがわかります。
次に以下の図を見てください。
これは移動平均線のパラメーターを3日にしたものです。先ほどの10日の移動平均線とは違い、細かく高値や安値に反応している、すなわち移動平均線が数多く屈折しているのがわかります。
たしかに、短期の移動平均線の方が細かい流れの変化も示しているのかもしれませんが、これだけ変化が多いということはミスする機会も増えるということにもつながります。故に、筆者としては、移動平均線は5日から30日ぐらいの期間を基本として使うのが良い、と考えています。
特に、MT5を使うと移動平均線は何本でも引くことが出来ます(筆者は12本まで描いたことがあります)。ですので、この機能を活かしながら各通貨に対する最適な移動平均のパラメーターを見つけるのも良いと思います。
最後の一つ筆者の意見を述べておきたいと思います。よく、マーケットが大きく動いた際に聞かれるパラメーターの数字です。つまり、『100日移動平均線』や『200日移動平均線』というものです。実は、筆者はこれらの移動平均線に対しては違和感を持っています。
そもそも、移動平均線の第一の特徴は、移動平均線が向かっている方向にトレンドが出ている、というものでした。先ほども、確認したばかりです。それに反して、200日移動平均線などはこの特徴が活かされていないと言っても過言ではないのです。
この図はドル円の日足に10日の移動平均線と200日移動平均を加えたものです。これを見ると、図の左下より上昇に転じたドル円が上昇および下落のトレンドを出しながら、右肩上がりに上昇していくのがわかります。
ところが、200日移動平均線を見ると赤矢印で示した時間帯まで緩やかながら下落トレンドを示していることになります。
この間、半年という月日を要しています。値動きを見る限り、10日の移動平均線を使用したのであれば、複数回のトレード機会があったことがわかります。しかし、200日移動平均線では半年間、右肩下がりで推移していたのです。
また、よく『200日移動平均線にタッチする』という表現が使われるようですが、赤矢印の先端にあたる肝心な押し目ではタッチしていません。
筆者が現役のファンドマネージャーとして運用をしていた頃に、『100日』や『200日』という長期の移動平均線を使っているという運用者がいると聞いたことはありませんし、多くの人は使っていませんでした。これはあくまでも筆者の推測ではありますが、バブル崩壊やリーマンショックなどの大変動の中で、相場を解説するのに都合が良いとしてアナリストが使い始めたのではないでしょうか。ただし、そういう彼らも実際にこれらの移動平均線を使って運用した経験はないのではないかと思っています。
ということで、移動平均線はパラメーターを固定せず、あまりにも長い期間のパラメーターは避けつつも積極的に変えて使ってみると、最適なパラメーターが見つかると思います。
是非、チャレンジしてみてください。
川口 一晃(オフィスKAZ代表取締役)
1986 年銀行系証券会社に入社。銀行系投資顧問や国内投信会社で11年間ファンドマネージャーを務める。
2004年10月に独立してオフィスKAZ 代表取締役に就任。