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【投資戦略ウィークリー 2025年2月17日号(2025年2月14日作成)】”ウクライナ動向と独総選挙、生活インフラ更新需要が鍵”

 

■ウクライナ動向と独総選挙、生活インフラ更新需要が鍵

  • 第2次トランプ米政権発足後、米国による中国からの輸入品に対する10%の追加関税、中国による報復関税は2/10から導入された。米国による全貿易相手国からの鉄鋼とアルミニウムへの25%追加関税は適用除外制度が廃止され、3/12に発効することとなった。さらに、トランプ大統領は米国からの輸入品に関税を課している全ての国に「相互関税」を課すと表明。半導体や医薬品、自動車への関税導入の有無や、例外的措置の対象を巡る思惑などで、当面は株式市場が揺さぶられそうだ。
  • トランプ大統領は2/12、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、ウクライナ戦争を終結させるための協議を行うことで合意した。ウクライナでの戦争終結が実現すれば、天然ガス価格の下落や復興需要で企業業績が改善するのではないかとの期待から、欧州株は過去最高値を更新している。さらに、ドイツは経済見通しが暗い中、2/23に連邦議会総選挙を控える。選挙の主要な争点は経済であり、憲法にあたる基本法でGDPの35%を超える財政赤字を禁じる「債務ブレーキ」があることが経済成長への足枷になっていると声が高まっている。選挙後の政権与党は経済対策に重点を置かざるを得ないだろう。ウクライナ情勢の改善に加え、ドイツの財政支出拡大はユーロ高・ドル安をもたらす可能性が高いだろう。
  • トランプ関税の導入と物価上昇(インフレ)再燃の懸念から米FRB(連邦準備制度理事会)が追加利下げを先送りせざるを得ないとの見方から、市場では米ドル高が続くとの見方が根強い。ところが、上記の背景からユーロ高・ドル安の可能性に加え、日本でも日銀の追加利上げ観測の高まりから2/13の債券市場では、10年国債利回りが一時37%(2010年4月以来)まで上昇するなど長期金利が上昇。円高ドル安圧力が高まっている。トランプ政権によるエネルギー価格低下に向けた石油・ガス生産奨励策への期待もドル安を支える要因だろう。為替相場は日経平均株価の上値を重くする要因となりやすいことに要注意だろう。
  • それでも、日本株の中には、日本国内の実情に根ざした実需を背景に、為替相場やトランプ関税ほか世界情勢の動向にかかわらず堅調に推移する銘柄が増えると考えられる。既存のITシステムが抱える問題として経済産業省が指摘した「2025年の崖」を乗り切るためのDX(デジタル変革)加速化、地方自治体の基幹業務システムに関する「ガバメントクラウド」への移行といったITインフラの更新に加え、道路陥没事故を引き起こして問題となっている水道管の老朽化、鉄道レールの老朽化などに対応した国民生活の基本インフラの更新も早急に必要だろう。(笹木)

本日号は、日本電設工業(1950)、ソディック(6143)、月島ホールディングス(6332)、竹内製作所(6432)、バンク・セントラル・アジア(BBCA)を取り上げた。

■主な企業決算の予定   

  • 217日(月): ブリヂストン
  • 218日(火): トレンドマイクロ、(米)ケイデンス・デザイン・システムズ、コスター・グループ、メドトロニック
  • 219日(水):横浜ゴム、(米)アンシス、アナログ・デバイセズ
  • 220日(木):(米)ブッキング・ホールディングス、コパート、サザン、ウォルマート、メルカドリブレ

 

主要イベントの予定

  • 217日(月)

・08:50 国内総生産(GDP、10-12月期速報)、13:30 鉱工業生産・設備稼働率(12月)、13:30 第3次産業活動指数(12月)

・米プレジデンツデーの祝日のため米国株式・債券市場休場、米フィラデルフィア連銀総裁と米ボウマンFRB理事が講演、ユーロ圏財務相会合

 

  • 218日(火)

・財務省の20年利付国債入札、14:00首都圏新築分譲マンション(1月)

・米サンフランシスコ連銀総裁と英中銀総裁が講演、豪中銀が政策金利発表、EU財務相理事会、WTO一般理事会(19日まで)

・ 米ニューヨーク連銀製造業景況指数(2月)、 米NAHB住宅市場指数(2月)、対米証券投資(12月)、独ZEW期待指数(2月)、英ILO失業率(10-12月)

 

  • 219日(水)

・月例経済報告(2月)、08:50 コア機械受注(12月)、08:50 貿易収支・輸出・輸入(1月)、10:30 高田日銀審議委員が宮城県金融経済懇談会で講演(14:30 記者会見)、14:30日証協会長会見、16:15 訪日外客数(1月)

・米FOMC議事要旨 (1月28、29日開催分)、米20年債入札、NZ中銀が政策金利発表

・米住宅着工件数(1月)、英CPI(1月)

 

  • 220日(木)

・フライヤーが東証グロースに新規上場、08:50対外・対内証券投資(2月9-15日)、10:00スズキが新中期経営計画発表

・米シカゴ連銀総裁が質疑応答に参加、米セントルイス連銀総裁が講演、米30年インフレ連動米国債、 ECB経済報告、中国1年・5年物ローンプライムレート(LPR)、G20外相会合(南アフリカ・ヨハネスブルグ、21日まで)

・米新規失業保険申請件数(15日終了週)、米景気先行指標総合指数(1月)、ユーロ圏消費者信頼感指数(1月)

 

  • 221日(金)

・ブッキングリゾートが東証グロースに新規上場、08:30全国CPI(1月)、09:30 auじぶん銀行日本サービス業・製造業・複合PMI(2月)、10:00ブルームバーグ日本経済調査(2月)

・S&Pグローバル米製造業・サービス業・総合PMI(2月、速報値)、米ミシガン大学消費者マインド指数(2月、確報値)、米中古住宅販売件数(1月)、ユーロ圏製造業・サービス業・総合PMI(2月)

 

  • 223日(日)

・ドイツ総選挙

(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)

※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。

次のマグニフィセントセブン候補

米S&P500指数構成企業のうち、2/12終値で時価総額が1兆USDを超える企業は「マグニフィセントセブン」7社の他に通信半導体のブロードコムAVGOと投資持株会社のバークシャー・ハサウェイBRK/Bを加えた9社。うちマイクロソフトMSFTを除く8社は、2023年末からの時価総額増加率が2桁以上で推移し、成長力が衰えていない。それでも、第2次トランプ政権発足後、大型ハイテク株や半導体銘柄からの資金シフトの兆しが窺われる。

2/12終値で時価総額2000億USD以上(1兆USD未満)かつ2023年末からの時価総額増加率が10%以上のIT・ハイテク関連銘柄には、パランティア・テクノロジーズPLTRネットフリックスNFLXインテュイティブ・サージカルISRGオラクルORCLIBMIBM)、サービスナウNOWなどがある。

【次のマグニフィセントセブン候補~時価総額2000億ドル超で高成長率狙い】

■中小型グロース優位のアジア市場

中国の新興企業DeepSeek社が発表した新しい生成AI(人工知能)モデルによって米国株式市場が大幅に下落した1/27を境に、東証グロース市場250指数のパフォーマンスがTOPIX(東証株価指数)を上回っている。AIの開発や運用に必要とされた費用や電力が減ることでソフトウエア関連の中小型銘柄に追い風となるとの見方が反映されている。また、東証グロース市場250指数は、2020年3~10月にかけて上昇した後、下落基調が続いていたことから、出遅れ銘柄の循環物色として注目される面もある。

DeepSeek社の生成AIモデルが中国ハイテク銘柄に追い風との見方から、香港市場ではハンセンテック指数のパフォーマンスがハンセン指数を上回っている。

【中小型グロース優位のアジア市場~日本と香港でグロース銘柄が堅調】

■大ヒットゲームアプリと株価上昇

ディー・エヌ・エー2432が昨年10/30にリリースしたスマホ向け「ポケモンTCGポケット(ポケポケ)」が大ヒット。1か月半で6000万ダウンロード数を突破した。

2012年2月に「パズドラ」をリリースしたガンホー・オンライン・エンターテインメント(3765)、2013年9月に「モンスターストライク」をリリースしたMIXI(2121)、2016年7月に関連会社・投資先が開発・運営する「ポケモンGO」がリリースされた任天堂(7974)、2021年2月に「ウマ娘プリティダービー」をリリースしたサイバーエージェント(4751)に関し、スマホアプリのリリース前日の株価終値を100とした相対指数で240日間の推移を見ると、サイバーエージェントを除いて持続的に株価が押し上げられた。ディー・エヌ・エーの株価もリリースから株価が約2倍上昇した。

【大ヒットゲームアプリと株価上昇~ディー・エヌ・エーの「ポケポケ」への期待】

 

■銘柄ピックアップ

日本電設工業1950)      

2119  円(2/14終値)   

・1942年に当時の鉄道省の要請により鉄道電気工業を設立。設備工事(鉄道電気工事、一般電気工事、情報通信工事)の請負、企画、設計・積算、監理を主に営む、JR東日本9020が筆頭株主。

・1/31発表の2025/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比6.4%増の1250億円、営業利益が同17.3%増の37億円。12月末受注残高は同11%増の1905億円。事業別受注高は、鉄道電気工事が同5%増の700億円、一般電気工事が同4%減の408億円、情報通信工事が同30%増の227億円。

・通期会社計画は、売上高が前期比5.7%増の2051億円、営業利益が同9.1%増の146億円。利益還元を重要課題とする中期経営計画のもと、2/12に年間配当計画を増額修正。同17円増配の64円(従来計画50円)とした。データセンター設備投資や駅前大規模開発等の需要増が見込まれる中で2/13終値のPBRは0.67倍。JR東日本は他に鉄建建設1815が傘下にあり、再編余地があるだろう。

ソディック(6143          

880 2/14終値) 

・1976年に横浜市で設立された工作機械メーカー。世界首位級の放電加工機や金属3Dプリンタ等の工作機械事業のほか、射出成形機等の産業機械事業、製麺機等の食品機械事業を主に営む。

・2/13発表の2024/12通期は、売上高が前期比9.7%増の736億円、営業利益が前期の▲28億円から22億円へ黒字転換。売上比率70%の工作機械事業は、同10%増収、営業利益が同331%増の34億円。データセンター投資増を背景に光通信デバイスや超精密光コネクタ等への需要が拡大した。

・2025/12通期会社計画は、売上高を前期比5.1%増の774億円、営業利益が同92.7%増の43億円、年間配当が同横ばいの29円。うち、工作機械事業は引き続きデータセンター設備投資増を追い風に通期営業利益を同45%増の50億円と見込む。光と電気の機能を統合した「光電融合」によりデータセンターの省電力化を実現する上で同社の高性能レーザー加工機は注目の余地があるだろう。

月島ホールディングス6332)    

1549  円(2/14終値) 

         

・1905年に、東京月島機械製作所として創業。水環境事業(上下水道および汚泥再生処理やバイオマス利活用設備)、産業事業(産業インフラ設備や廃棄物処理の環境関連設備)を主な事業とする。

・2/7発表の2025/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比25.6%増の866億円、営業利益が同251%増の29億円。事業別の受注高は、水環境事業が同24%増の959億円、産業事業が同23%増の363億円。国内の水インフラ関連投資、国内外の産業インフラ更新投資需要ともに堅調に推移。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比12.7%増の1400億円(従来計画1300億円)、営業利益を同13.8%増の77億円(同70億円)、年間配当を同18円増配の60円(同52円)とした。2023年10月に水環境事業の国内水エンジニアリング事業をJFEエンジニアリングの傘下事業と統合したことの効果が見込まれる。上下水道業界は水道管老朽化や水質汚染が社会問題として注目を集めている。

竹内製作所(6432             

5460   2/14終値)  

 

・1963年設立の建設機械メーカー。主要品目はミニショベル、油圧ショベル、クローラーローダーで海外売上高比率が約98%。廃水処理施設、化学・食品業界向けに攪拌機も製造・販売している。

・1/10発表の2025/2期9M(3-11月)は、売上高が前年同期比4.8%増の1664億円、営業利益が同32.0%増の338億円。欧州市場の需要低調の影響で受注高は同4.6%減の1197億円。製品価格値上げや製品構成変化が増益に寄与。売上比率59%の米国は15%増収、セグメント利益が32%増。

・通期会社計画は、売上高が前期比1.4%増の2155億円、営業利益が同26.1%増の445億円、年間普通配当が同47円増の200円。米カリフォルニア州・ロサンゼルス近郊の山火事による災害からの復興需要に続き、米トランプ大統領がロシアのプーチン大統領と電話会談し、ウクライナ戦争を終結させるための協議を開始することで合意。停戦実現後のウクライナ復興需要による恩恵が期待される。

バンク・セントラル・アジア(BBCA)   

市場:インドネシア     9000  IDR 2/13終値)

・1957年設立の商業銀行。1998年アジア通貨危機時に国有化後、資本増強・リストラを経て2000年再上場。時価総額でアセアン最大であり、金融機関でシンガポールDBSホールディングスを上回る。

・1/23発表の2024/12通期は、営業収益が前期比9.7%増の107.4兆IDR、当期利益が同12.7%増の54.8兆IDR。12月末貸出残が同13%増と伸びて純金利収益が同10%増。非金利収益も同10%増。利益面は、貸倒引当金繰入額が同51%増へ悪化も、経費率が同2.6ポイント低下の31.5%へ改善。

・同社は、国連が定めるSDGs(持続可能な開発目標)のうち9 分野の融資を「サステイナブル・ファイナンシング(SF)」と称し、重点的に拡大。SFは、①環境に係るグリーンファイナンシング、および、②貧困者向け小口金融サービス(マイクロファイナンス)と中小企業(SME)向けを含んだ「ソーシャルファイナンシング」の 2 部門から構成される。SF の 12 月末残高が前期比 12.5%増の 229 兆 IDR に達した。

 

■アセアン株式ウィークリーストラテジー

2/17号「インドネシアGoToとシンガポール・グラブ」)

シンガポールの配車サービス大手で米ナスダック上場のグラブ(GRAB)は、インドネシアのIT大手GoToと統合に向けた交渉をしていると報道された。グラブはGoTo傘下の会社大手ゴジェックと競合関係にある。日本のソフトバンクグループ(9984)は、グラブの第2位株主であると同時に、ソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じて実質的にGoToの筆頭株主である。GoToはインドネシア通信2位のインドサットと組んで自国文化に対応した生成AI(人工知能)の開発を進めていることから、合意に至らない可能性もある。シンガポールで単発の宅配などの仕事を請け負うギグワーカーの待遇を改善する目的で「プラットフォーム労働法」が昨年9月に制定されたことを受けて、グラブは年初から利用手数料を値上げしている。コストが相対的に安いインドネシアはグラブにとって魅力的だろう。

 

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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

アセアン・米国株、個別銘柄のリサーチレポート承ります
世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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