【投資戦略ウィークリー 2024年12月9日号(2024年12月6日作成)】”利上げと消費・小売・インバウンド、半導体IPO、建築業界”
■利上げと消費・小売・インバウンド、半導体IPO、建築業界
- 12月18~19日に開催する日銀金融政策決定会合での利上げの有無について市場の見方が分かれている。日本経済新聞社が11/30に報じた、植田日銀総裁へのインタビューでの発言によれば、植田総裁は追加利上げ時期が近づいていると述べ、国内賃金と米国経済を見極めたいとした。12/6発表の10月の毎月勤労統計調査によれば、電気・ガス代の補助再開と最低賃金の引き上げを背景に、名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比横ばい。追加利上げへの条件を一つ満たした形だ。
- 7月末に実施された日銀の利上げは、キャリートレード(低金利通貨で資金調達して高金利通貨で運用して利ザヤを稼ぐ手法)の巻き戻しと為替の円高を通じて株式市場を混乱させた要因となった。為替の円高は輸出関連企業の収益減を伴って日経平均株価の下落要因となりやすい局面が続くと想定されるものの、輸入物価コストの落ち着きが実質賃金と実質消費の増加に繋がるならば内需関連銘柄には追い風だ。消費・小売り関連銘柄は既存店売上高を中心に11月の月次売上が軒並み好調だ。
- 中国政府が11/30に日本人の短期滞在ビザ(査証)を免除する措置を再開した。日本政府も中国人が日本を訪れる際に求めるビザの発給要件を緩和する調整に入った。訪日中国人の観光客は1人当たりインバウンド消費額が相対的に高く、インバウンド需要を背景に、小売やサービスの売上増加が来年にかけて期待される。
- 米国半導体工業会(SIA)による9月の世界半導体販売額(3ヵ月移動平均)が前年同月比2%増、日本半導体製造装置協会(SEAJ)による10月の日本製半導体製造装置(輸出を含む)の販売額(3ヵ月移動平均)が同33.4%増と、半導体を巡る市場環境は堅調さを維持している。そのような中で東芝の半導体メモリー事業が独立した、世界最大級のフラッシュメモリー専業企業のキオクシアホールディングス(285A)が12/18にプライム市場に上場する。主要取引先として、新日本空調(1952)、関東電化工業(4047)、クエスト(2332)、ジャパンマテリアル(6055)などが挙げられる。
- 2025年4月に改正建築基準法が施行される。これによって「4号特例」が縮小されて建築確認申請の際に木造2階建ての構造計算書などの提出が義務付けられる。また、新築だけでなく大規模リフォームの際も建築確認申請が必要だ。環境や建物の安全性に配慮した施工も求められるようになる。建築業界は今年4月施行の「働き方改革関連法」による時間外労働の上限規制に続く大きな変革の機会だ。関連銘柄が注目される可能性は高い。(笹木)
本日号は、JFEシステムズ(4832)、ホシデン(6804)、共立メンテナンス(9616)、福井コンピュータホールディングス(9790)、インドフードCBPサクセス・マクムール(ICBP)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 12月9日(月):萩原工業、泉州電業、学情、ミライアル、ビューティガレージ、スバル興業、シーイーシー、サムコ、コーセーアールイー、アルトナー、(米)モンゴDB、オラクル
- 12月10日(火):トビラシステムズ、アイモバイル、ポールトゥウィンホールディングス、ベステラ、ネオジャパン
- 12月11日(水):巴工業、モロゾフ、ファーマフーズ、シルバーライフ、ザッパラス、アセンテック、gumi、ANYCOLOR、(米)アドビ
- 12月12日(木):三井ハイテック、鎌倉新書、柿安本店、マクビープラネット、ビジョナル、トップカルチャー、トーホー、トーエル、ダブル・スコープ、セルソース、シーアールイー、オハラ、アイ・ケイ・ケイホールディングス、JMホールディングス、Casa、(米)コストコホールセール、ブロードコム
- 12月13日(金):日東製網、正栄食品工業、神戸物産、丸善CHIホールディングス、楽待、稲葉製作所、ヤーマン、ミサワ、マネジメントソリューションズ、フリービット、ブラス、フジ・コーポレーション、ナイガイ、トルク、ジェイ・エス・ビー、クミアイ化学工業、グッドコムアセット、エニグモ、エイチ・アイ・エス、アスクル、アクシージア、Link-U グループ、HEROZ、Hamee
■主要イベントの予定
- 12月9日(月):
・日銀の国債買い入れオペ、インフォメティスが東証グロースに新規上場、キオクシアホールディングスが公開価格を決定、08:50 国内総生産(GDP、7-9月期改定)、08:50 国際収支:経常収支・貿易収支(10月)、08:50 貸出動向(11月)
・ユーロ圏財務相会合(ユーログループ、ブリュッセル)
・ 米卸売在庫(10月)、 米NY連銀インフレ期待(11月)、中国CPI&PPI(11月)、中国経済全体のファイナンス規模・新規融資・マネーサプライ(11月、15日までに発表)
- 12月10日(火):
・財務省が5年利付国債入札、08:50 マネーストックM2・M3(11月)、15:00 工作機械受注(11月)
・EU財務相理事会(ブリュッセル)、ノーベル賞授賞式、豪中銀が政策金利発表
・米非農業部門労働生産性(3Q)、独CPI(11月)、中国貿易収支(11月)
- 12月11日(水):
・セミコンジャパン開幕(東京ビッグサイト、13日まで)、08:50 景況判断BSI大企業製造業・大企業全産業(4Q)、 08:50 国内企業物価指数(11月)
・カナダとブラジルが政策金利発表、OPEC月報
・ 米CPI(11月)、米財政収支(11月)
- 12月12日(木):
・ユカリアが東証グロースに新規上場、08:50 対外・対内証券投資 (12月1-7日)、11:00 東京オフィス空室率(11月)
・ECBが政策金利発表&ラガルド総裁記者会見、スイス中銀が政策金利発表
・米新規失業保険申請件数(12月7日終了週)、 米PPI(11月)、米家計純資産(3Q)、豪雇用統計(11月)
- 12月13日(金):
・ラクサス・テクノロジーズが東証グロースに新規上場、日本取引所グループCEOが定例会見、08:50 日銀短観 (12月調査)、10:00 ブルームバーグ日本経済調査(12月)、13:30 鉱工業生産・ 設備稼働率(10月)
・米輸入物価指数(11月)、ユーロ圏鉱工業生産(10月)、英鉱工業生産(10月)、ロシアGDP(3Q)
- 12月14日(土):
・スペースワンがカイロスロケット2号機打ち上げ予定
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■S&P500株価指数の転換に注意
米国株式市場は、「年末ラリー」、「サンタクロース・ラリー」の上昇相場を期待する投資家が増えてきている。米国上場全株式の時価総額合計を米国名目GDPで割った割合を示す「バフェット指数」の月末推移を見ると、21年11月の過去最高水準222.67から22年9月の152.16まで低下した後、反転して今年11月に216.79に上昇するなど過熱状態を示している。
S&P500株価指数の週次終値推移を見ると、過去14週間の上げ幅合計を、上げ幅合計と下げ幅合計を足した数字で割った「RSI(相対力指数)」は指数と連動する傾向がある。その中でも過去5年間で2020年2月と2021年12月に指数が上昇基調から反転下落する転換局面の前に逆行現象がみられる。直近でも同様の逆行現象が確認されており、今後は要注意だろう。
【S&P500株価指数の転換に注意~株価とRSIのネガティブ・ダイバージェンス】
■日中長期金利スプレッド縮小・逆転
日本と中国の30年物国債の利回りが11月半ば以降に逆転。これは日銀の追加利上げ観測や中国経済の減速など、両国の金融政策と経済環境の違いを反映している。中国政府は在庫住宅の買取や10兆元(約210兆円)規模の地方債務対策を打ち出したものの、経済全体の回復にはつながっていない。10年国債の利回り差は11月末で1%近くあるものの、中国国債の利回り曲線は満期15年以降で長短逆イールドとなっている。満期までの期間が短い(価格変動性の小さい)国債へ買いが広がる可能性が高い。
金利スプレッドの縮小や逆転は円買い・人民元売り要因だ。中国人民銀行が金融緩和を推し進める中で投機筋がキャリートレードの対象通貨を円から人民元へシフトする可能性もある。
【日中長期金利スプレッド縮小・逆転~人民元高・円安トレンド反転の可能性】
■希薄化・需給悪化と自律反発
公募増資などにより発行済株式総数が増加することで既存株主の持株比率や1株当たり利益等が減少することを「希薄化」と呼ぶ。また、政策保有株式や大株主保有株式の売り出しも、需給バランスの崩れが懸念されやすい。これらは一般的に短期的な株価下落要因とされる。
新株発行による資金が、成長分野への設備投資を通じて株主価値を増やすとされれば株価は反発に転じやすい。一方で、株式売り出しは発行企業に資金流入をもたらさないが、株主構成変化により企業統治が改善したり、あるいは大株主が株式持ち合い相手方である場合には政策保有株式の売却に繋がり株主還元の原資にもできる。希薄化・需給悪化懸念による株価下落後の反発を狙う投資が有効な場合もあるだろう。
【希薄化・需給悪化と自律反発~新株発行・ユーロ円CB発行・株式売り出し】
■銘柄ピックアップ
JFEシステムズ(4832)
3100 円(12/6終値)
・1983年に川崎製鉄のシステム部門が分離して設立。JFEスチール向け業務システムを担う鉄鋼事業のほか、ソリューション・プロダクト事業、基盤サービス事業、DX事業、ビジネスシステム事業を営む。
・10/29発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比2.9%減の298億円、営業利益が同17.7%減の33億円。基盤サービス事業が拡大したものの、鉄鋼事業で一部売上が下期へずれ込んだことによる影響で減収。社員の処遇改善に伴う労務費増、人材採用・育成費用増が響き減益。
・通期会社計画は、売上高が前期比0.2%増の621.3億円、営業利益が同10.3%減の66.4億円、年間配当が配当性向35%を目途の配当方針に従い同19円減配の102円。同社はJFEホールディングス(5411)傘下のJFEスチールが65.15%を保有。アクティビスト(物言う株主)が日本製鉄(5401)に対し上場子会社の完全子会社化や吸収合併へ圧力を強める中で同社も注目を集めると予想される。
ホシデン(6804)
2236 円 (12/6終値)
・1947年に大阪市東成区に古橋製作所を創業。電子部品の開発・販売を主な事業とし、機構部品(コネクタ他)、音響部品(マイクロホン他)、表示部品(タッチパネル)、その他複合部品から構成。
・11/8発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比7.0%減の1161億円、営業利益が同23.2%増の79億円。移動体通信や自動車関連が増収も、アミューズメント関連向けの減収が売上面で響いたが、移動体通信向け事業の収益率改善と製品ミックスによる収益率改善が増益に寄与。
・通期会社計画は、売上高が前期比3.7%増の2270億円、営業利益が同28.8%減の92億円、年間配当が配当性向30%を目途の配当方針に従い同30円減配の38円。12/3、ユーロ円建て転換社債型新株予約権付社債を海外で発行し100億円を調達すると発表。機構部品、音響部品の製造における自動化・省人化に向けた設備投資、ベトナムでの新工場建設、自社株買いに充てるとしている。
共立メンテナンス(9616)
2736.5 円(12/6終値)
・1979年設立。学生・社員寮の管理運営を行う寮事業、ビジネスホテル「ドーミーイン」とリゾートホテルを全国展開するホテル事業を主力とする。総合ビルマネジメント事業、フーズ事業も展開する。
・11/8発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比12.9%増の1113億円、営業利益が同26.5%増の106億円。ホテル事業はインバウンド増を背景に売上高が同12%増の679億円、営業利益が同30%増の94億円。寮事業は売上高が同5%増の274億円、営業利益が同8%増の32億円。
・通期会社計画は、売上高が前期比10.7%増の2260億円、営業利益が同10.7%増の185億円、株式分割の影響を考慮した年間配当は同7.5円増配の32円。10月の訪日外国人観光客数が単月で過去最高を記録。また、中国政府が11月に日本人の短期滞在ビザの免除措置を再開。日本政府も中国人が日本を訪れる際に求められるビザの発給要件を緩和する調整に入ったと12/4に報じられた。
福井コンピュータホールディングス(9790)
3080 円 (12/6終値)
・1979年に福井市で設立。主に建築・測量・土木のCADソフトウエアおよびアプリケーションの開発・販売を営む。建築システム、測量土木に加え、投票調査装置を含むITソリューション事業も行う。
・11/8発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比4.4%増の72億円、営業利益が同8.9%増の31億円。建築システム事業は2025年の建築基準法改正に伴う対応需要、測量土木システム事業は国土交通省が推進する「i-Construction2.0」を背景に、それぞれ増収、営業増益と堅調に推移。
・通期会社計画は、売上高が前期比0.1%増の138.37億円、営業利益が同3.5%減の53.90億円、年間配当が同5円増配の70円。国土交通省が「i-Construction」普及を目指すなか、同社は建設分野における「デジタルツイン」の実現に不可欠なツールとしてリアルタイム3Dエンジンに注目。11/29,ゲーム分野で高品質なりアルタイム3Dエンジンを開発・提供する米ユニティ社と業務提携したと発表。
インドフードCBPサクセス・マクムール(ICBP)
市場:インドネシア 11900 IDR (12/5終値)
・2009年に親会社のインドフード・サクセス・マクムール(INDF)から分離・独立。親会社はインドネシア財閥のサリムグループ企業。即席麺「インドミー」はインドネシアの国民食として親しまれている。
・10/31発表の2024/12期9M(1-9月)は、売上高が前年同期比8.1%増の55.48兆IDR、営業利益が同10.1%増の11.99兆IDR。低価格なうえ手軽にアレンジできる国民的人気食が牽引したほか、スナック部門や飲料水部門も増収増益。売上高販管費率が悪化したものの粗利益率が同0.9ポイント上昇。
・インドネシアでは、イスラム教の戒律に従う「ハラール認証」制度が大きく変更され、宗教省直下の機関による国家規格となった。2024年10月より飲食品についてハラール認証の義務化がスタートし、他の品目についても2027年10月までに順次義務化が進む予定だ。「インドミー」はハラール認証の食品としてイスラム圏へ輸出が拡大。9Mの中東・アフリカへの同社売上高は前年同期比11%増だ。
■アセアン株式ウィークリーストラテジー
(12/9号「ハラール認証への対応が小売業の商機」)
インドネシアは世界で最も人口の多いイスラム教国で、人口のおよそ9割をイスラム教徒が占める。10/17以降、食品などがイスラム教の戒律に沿っていることを示す「ハラール認証」を得ていない商品を販売する際には「ハラル非対応」との表示が必要となり、原料についても包装にハラール非対応の明記が義務付けられるようになった。
インドネシアの隣国マレーシアもイスラム教徒が多く、国の機関による「JAKIM(ジャキム)」というハラール認証制度がある。マレーシア政府もハラールの工業団地(ハラールパーク)を建設し、外国の企業を積極的に誘致している。訪日外国人によるインバウンド消費でも、ハラール認証食品への対応が遅れているためにマレーシア人とインドネシア人を上手く呼び込めていない地域もあるようだ。
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笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。