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【投資戦略ウィークリー 2024年11月25日号(2024年11月22日作成)】”年末新NISA動向、M&Aを巡る動き、インバウンド新局面”

 

■年末新NISA動向、M&Aを巡る動き、インバウンド新局面

  • 米国市場は11/28が感謝祭の祝日で休場となり、その翌日も短縮取引である。いよいよ年末モード入りだ。昨年までのNISA(非課税投資)制度と異なり、新NISAでは売却した非課税枠が翌年以降に再利用可能なため、年末までに利益確定売却を進める動きが出てくると考えられる。あるいは、冬のボーナスを活用してまだ使っていない枠で買い付ける動きも期待される。いずれにせよ、年が明ければ枠が増額されることから、日本株市場にとっては年明け後の新NISAによる買いが期待できるように思われる。
  • 日本株市場では、セブン&アイホールディングス3382を巡り、カナダの小売り大手クシュタールによる買収提案に対抗して創業家を中心としたグループが「年度内」と期限を区切って金額を上積みして自社株買収(MBO)の提案を行った。同グループの中には傘下にコンビニ大手ファミリーマートを擁する伊藤忠商事8001も含まれており、ローソンを傘下に擁する三菱商事8058も伊藤忠商事への対抗上、巻き込まれる可能性がある。
  •  ソニーグループ6758KADOKAWA9468買収に向けて協議を始めたことが報道された。日本株の有望分野として海外投資家からの注目度の高い日本のコンテンツ産業を巡り、M&Aを通じて有力なコンテンツを獲得して事業拡大を目指す動きが進んでいる。日本のアニメやゲームのキャラクター権利のライセンスビジネスを巡っては、エンターテイメントを強化しようという国策を推進中のサウジアラビアが圧倒的な資金力を背景に以前より強い関心を示している。経済産業省が昨年8月に示した「企業買収における行動指針」によれば、「真摯な提案には真摯な検討を」とされ、後から別のグループにより巨額の買収提案が行われた場合、拒否が難しくなる。人気キャラクターを擁するゲーム関連企業は、年末商戦を控えるほか、スマホアプリにおいて米アップルやグーグルのプラットフォーム外の独自決済の余地が広がるなど、幾重もの追い風が吹いているように見受けられる。
  • 日本政府観光局(JNTO)によれば、1-10月累計の訪日外国人客数が過去最速で3000万人を突破。前年同期比で約5倍に増えた。特に注目すべきは中国人客の比率が前年同期の1割弱から2割弱に拡大した点である。中国人客はインバウンド消費額が大きいことから、その増加の恩恵は百貨店の免税売上高やホテルなど多くの産業に及びやすい。近隣国であることもあり、欧米客と比べて安定したリピーター化が見込まれる。インバウンド関連銘柄は押し目買いの投資好機を迎えた可能性がある。(笹木)

本日号は、オイシックス・ラ・大地(3182)、ミルボン(4919)、三櫻工業(6584)、日本空港ビルデング(9706)、ベンチャー(VMS)を取り上げた。

■主な企業決算の予定   

  • 1125日(月):タカショー
  • 1126日(火):ダイドーグループホールディングス、(米)クラウドストライク・ホールディングス、オートデスク、ワークデイ、アナログ・デバイセズ
  • 1127日(水): カシオ計算機
  • 1129日(金): ラクーンホールディングス

主要イベントの予定

  • 1125日(月)

・14:00 景気先行CI指数・一致指数(9月)、14:30 全国百貨店売上高(10月)、14:30 東京地区百貨店売上高(10月)

・米2年債入札

・独IFO企業景況感指数(11月)

 

  • 1126日(火)

・財務省による国債市場特別参加者会合、月例経済報告(11月)、08:50 企業向けサービス価格指数(10月)、14:00 基調的なインフレ率を捕捉するための指標、15:30経団連会長定例会見

・米FOMC議事要旨(11月6、7日開催分)、米5年債入札

・米主要20都市住宅価格指数(9月)、米FHFA住宅価格指数(9月)、米新築住宅販売件数(10月)、 米消費者信頼感指数(11月)

 

  • 1127日(水)

・財務省40年利付国債入札、財務省の国債投資家懇談会、15:00 JERA社長定例記者会見

・米7年債入札、NZ中銀が政策金利発表

・米卸売在庫(10月)、 米新規失業保険申請件数(23日終了週)、米耐久財受注(10月)、米GDP(3Q、改定値)、 米個人所得・支出(10月)、米個人消費支出(PCE)価格指数(10月)、米中古住宅販売成約指数(10月)、中国工業利益(10月)

 

  • 1128日(木)

・臨時国会召集日、日銀の国債買い入れオペ、ククレブ・アドバイザーズが東証グロースに新規上場、08:50  対外・対内証券投資 (11月17-23日)、13:30 トヨタ自動車が10月生産・販売実績を発表、15:00 トヨタ以外の日系自動車メーカーが10月生産・販売実績を発表、15:00 東京ガス社長定例会見

・米株式・債券市場が感謝祭の祝日のため休場、韓国中銀が政策金利発表

・ユーロ圏マネーサプライ(10月)、 ユーロ圏消費者信頼感指数(11月)、ユーロ圏景況感指数(11月)、独CPI(11月)

 

  • 1129日(金)

・石破首相が国会で所信表明演説、財務省2年利付国債入札、グロービング(上場日は29日から12月5日のいずれかの日)とTerra Droneが東証グロースに新規上場、08:30 東京CPI (11月)、 08:30 失業率・有効求人倍率(10月)、08:50 小売売上高(10月)、08:50 百貨店・スーパー売上高(10月)、08:50 鉱工業生産(10月)、14:00 住宅着工(10月)、14:00 消費者態度指数(11月)、15:30 資生堂の事業戦略説明会

・米感謝祭翌日のブラックフライデー、米株式・債券市場が短縮取引、ECBのユーロ圏CPI予想(10月)

・ユーロ圏CPI(11月)、 独失業率(11月)、インドGDP(3Q)

 

  • 1130日(土)

・中国製造業・非製造業PMI(11月)

(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)

※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。

第1次トランプ政権前半の株価

第1次トランプ政権の前半2年間は、2017年が「期待」、2018年が「調整と懸念」の年だった。2年を通じて「エネルギー」業種企業の株価は原油価格が落ち着いていたこともあり低調だった。2017年はトランプ政権が法人税の大幅減税を掲げ、年末に「減税と雇用法案」を成立させた。成長株への資金流入で「情報技術」、インフラ投資計画の恩恵で「素材」、規制緩和の恩恵で「金融」の業種が主に注目された。

2018年になると米中間の貿易摩擦が激化。これにより中国に供給網を依存している「素材」や中国への輸出割合が大きい半導体・ハイテク関連の業種が影響を受けた。その一方で、「ヘルスケア」などディフェンシブ業種やアップルAAPLなど一部の「情報技術」の大型IT企業は株価が2017年に引き続いて堅調に推移した。

【第1次トランプ政権前半の株価~S&P500業種別指数の年間騰落率動向】

■中国国有系企業の高配当利回り

米国株や日本株と比較した場合の香港株市場の魅力として、配当利回りの高さが挙げられる。その意味では、市場を取り巻く環境が厳しくなり株価が軟調に推移した時の方が、減配リスクが相対的に限定された国有系企業を中心に高配当利回り投資の魅力が増しやすい。

高配当利回りの主な国有系企業として、①中国石油化工[シノペック](386香港)、②中国石油天然気[ペトロチャイナ](857香港)、③中国海洋石油[CNOOC](883香港)、④中国神華能源[チャイナ・シェンファ・エナジー](1088香港)、⑤中国移動[チャイナモバイル](941香港)、⑥中国工商銀行(1398香港)を見ると、予想配当利回りは年初より低下したが、中国工商銀行を除いて7-8%台と高水準を維持。エネルギー関連企業は利回り上昇傾向にある。

【中国国有系企業の高配当利回り~中国経済・景気の見通し悪化も尚良し】

 

■業種別騰落率と順張り・逆張り

日本株の物色動向をTOPIX(東証株価指数)の17業種毎の年初来騰落率で見ると、今年は利上げを背景に金融関連が上位を占める。他方、昨年は為替円安の恩恵を受けて2位だった自動車・輸送機、および政府の原発再稼働への前向きな政策を背景として3位だった電力・ガスは今年は下位にとどまるなど、年毎に業種別パフォーマンスは変遷している。

来年に向けて、今年堅調に推移した業種を順張りで狙うか、低調だった業種を逆張りで狙うかは重要なポイントだろう。23年に最下位だった医薬品は今年順位を少し上げている。年初来で今年最下位の運輸・物流も倉庫関連は不況時の積荷保管需要が期待できる。この2業種は景気が減速し始めるとパフォーマンスが向上する可能性がある。

【業種別騰落率と順張り・逆張り~今年好調な業種は来年も好調なのか?】

■銘柄ピックアップ

オイシックス・ラ・大地(3182)       

1633 円(11/22終値)   

・2000年に設立。ウェブサイトやカタログを通じて注文を受け、食品・日用品・雑貨を宅配する「BtoCサブスク事業」のほか保育園・学校・病院・老人保健施設等向け「BtoBサブスク事業」その他を営む。

・11/14発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比118.9%増の1257億円、EBITDA(営業利益+減価償却費+のれん償却額)が同91.3%増の61億円。前期4Q(1-3月)からシダックスグループを連結子会社化したことに加え、BtoCサブスクにおける商品原価や物流・配送コストの改善が寄与。

・通期会社計画は、売上高が前期比71.8%増の2550億円、EBITDAが同33.3%増の70億円、年間配当は無配。同社はシダックス買収後、シダックスが営んでいた給食事業だけでなく、地方自治体から受託していた社会サービス事業や車両運行サービス事業等も受け継いだ。石破政権は地方創生の実現に向けた交付金の倍増や農林水産業の振興に注力の方針であり、追い風が見込まれる。

ミルボン(4919           

3470 11/22終値) 

・1960年に大阪市東淀川区でユタカ美容化学を設立。化粧品の製造・販売を主な事業とし、ヘアケア用剤、染毛剤、パーマネントウェーブ用剤の主力製品のほかスキンケアなど化粧品その他を扱う。

・11/15発表の2024/12期9M(1-9月)は、売上高が前年同期比8.3%増の369億円、営業利益が同42.1%増の48億円。国内でヘアケアのプレミアムブランド「オージュア」とプロフェッショナルブランド「エルジューダ」が堅調に推移。海外で韓国におけるヘアケア・パーマ市場の活動強化が奏功した。

・通期会社計画は、売上高が前期比6.0%増506.2億円、営業利益が同19.5%増の66億円、年間配当が同横ばいの88円。1-9月のセグメント別売上比率は、ヘアケア用剤が58.4%、染毛剤が36.4%を占め、ヘアケア用剤が前年同期比11.6%増収。また、国内が75.6%、海外が24.4%で、海外売上高が同11.8%増収。技術力を背景としたヘアケア用剤のブランドは海外で注目を集めると予想される。

三櫻工業6584)                                   

 820  円(11/22終値)  

        

・1939年に埼玉県大宮市で創業し航空部品製造を開始。二重巻・一重巻のスチールチューブに関し自動車部品のほか電気部品・設備の製造・販売を行う。日本・北南米・欧州・中国・アジアで展開。

・11/14発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比8.8%増の810億円、営業利益が同25.2%減の23.84億円。北米での日系取引先の好調な販売に伴う生産増が増収に寄与。原材料価格や人件費・エネルギーコスト高騰に加え、北南米における一時的費用が響き営業減益となった。

・通期会社計画は、売上高が前期比3.3%増の1620億円、営業利益が同0.7%減の80億円、年間配当が同1.5円増配の28円。生成AI用途で高性能GPUの発する高熱処理が課題となるなか、11/20に発表した装置は、2月発表のデータセンター向け水冷冷却装置に続き、奥行き寸法や重量を小型にする新機種開発を発表。同社の水冷製品は「富岳」で採用実績があり、普及の加速が見込まれる。

日本空港ビルデング(9706             

5339   11/22終値)  

 

・1953年に設立。羽田空港における旅客ターミナル管理運営および国内線・国際線利用者に対するサービスの提供を主たる事業とする「施設管理運営」のほか「物品販売」、「飲食」の3事業を営む。

・11/8発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比31.0%増の1317億円、営業利益が同56.1%増の210億円。セグメント別売上高は、施設管理運営業が同17%増の512億円、物品販売業が同46%増の723億円(うち国際線売店が同55%増の481億円)、飲食業が同17%増の81億円。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比22.9%増の2673億円(従来計画:2645億円)、営業利益を同17.2%増の346億円(同:334億円)、年間普通配当を同8円増配の70円(同:62円)とした。日本政府観光局が11/20発表した10月の訪日客数は331万2千人と単月で過去最高。中国路線増便を背景に訪日客数全体に占める中国人客比率は1-10月で2割弱と、前年同期(1割弱)から拡大した。

ベンチャー(VMS)   

市場:シンガポール     12.86 SGD 11/21終値)

・1999年設立の電子サービスプロバイダーで大手エレクトロニクス企業向けを中心に多様な技術領域で受託開発製造を行う。シンガポール同業では米ナスダック上場フレックスFLEXに次ぐシェア。

・7/30発表の2024/12期1H(1-6月)は、売上高が前年同期比12.5%減の13.84億SGD、純利益が同11.7%減の1.23億SGD。顧客需要減とそれに伴う高水準だった在庫調整が響いたものの、営業キャッシュフローが同4%増の3.02億SGD、純現金収支が同33%増の11.9億SGDと、財務内容が改善した。

・EMS(電子機器受託製造サービス)の2023年世界ランキング(MMI社調査)では、同社は11位。同社より上位の海外企業(9社)は、台湾が4社、中国本土が1社、北米が4社。米トランプ次期政権の下、欧米企業の中国との供給網分断や輸出規制および台湾等地政学リスク等を背景に、どちらの陣営にも与しないアセアンの中心的存在であるシンガポールのEMS企業に見直し余地があるだろう。

 

■アセアン株式ウィークリーストラテジー

11/25号「タイでデパ地下出現、タイの焼き芋人気」)

三越伊勢丹ホールディングス3099が今年10月中旬、タイで高級スーパー「DEPACHIKA(デパ地下)」を開業。2020年に伊勢丹が撤退して以来のタイ市場へ再参入だ。同社は、デパ地下を「日本の百貨店が培ってきたこだわりの商品、環境、サービスが全て揃う上質な食品フロア」と定義し、日本流の生鮮品温度管理や接客をタイ人スタッフに浸透させて質の高いサービスを提供するとしている。

タイでは「焼き芋」が大人気だ。人気の火付け役は、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(7532)傘下の「ドン・キホーテ」だ。5年前にタイで初めて日本の焼き芋を販売したところ、大人気となった。焼き芋はタイで独自の進化を遂げ、「焼き芋アイスラテ」、「冷やし焼き芋」、「焼き芋モンブランアイス」などが人気。「焼き芋の天ぷら」や「焼き芋のチーズ焼き」はお酒に合うと評判だ。

 

 

留意事項
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部

笹木和弘プロフィール笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。

 

アセアン・米国株、個別銘柄のリサーチレポート承ります
世界経済のけん引役と期待されるアセアン(ASEAN:東南アジア諸国連合)。そのアセアン各国で金融・証券業を展開し、マーケットを精通するフィリップグループの一員である弊社リサーチ部のアナリストが、市場の動向を見ながら、アセアン主要国(シンガポールタイマレーシアインドネシア)の株式市場を独自の視点で徹底解説します。

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