投資戦略ウィークリー 2024年9月17日号(2024年9月13日作成)】”配当・優待権利に注目、経過措置適用企業は筆頭株主に注目”
■配当・優待権利に注目、経過措置適用企業は筆頭株主に注目
- 日経平均株価は史上最高値4万2426円を付けた7/11から3万1156円の年初来安値8/5まで17(営業)日間の下落、その19日後の9/2に3万9080円の戻り高値を付けた。今週の「メジャーSQ週」にかけて下落に転じるなか、米大統領選候補者討論会が行われた日本時間9/11に3万5253円を付けた翌日以降、米国消費者物価指数(CPI)発表を経て半導体関連を中心に反発の兆しだ。
- ただ、米国株市場ではS&P500指数が史上最高値を付けた7/16から9/10までの同指数構成銘柄を見ると半導体関連が特に下落率が大きいことが分かる。ある程度の戻りが期待できるとしても押し目買いから買い上げるスタンスは難しいだろう。特に米国時間9/18結果発表のFOMC(連邦公開市場委員会)を控えて米国債利回りの10年物と2年物の逆イールド解消が定着する場合、大型ハイテク株と半導体関連に偏っていた「歪み」が正常化・矯正の局面に向かう可能性が高いとみられる。米国株市場は既にヘルスケアと飲食チェーン、防衛関連に物色が大きくシフトしている。
- 日本株では9月末基準日の配当権利付き銘柄への物色が活発となる展開が想定される。株主還元・配当方針も配当性向引上げだけでなく、中長期的に利益水準に左右されない配当へのシフトを目指し、株主資本配当率(DOE)を基準とするほか、配当水準の下限を決めて減配をしない(増配または維持)ことを会社が約束する「累進配当」を導入する企業が増えている。「日経累進高配当株指数」はその構成銘柄が累進配当を10年以上続ける銘柄のうち予想配当利回りが高い銘柄ということで注目される。
- 最近は「株主平等原則」の観点から本業に無関係な株主優待を廃止して増配に回す企業が増える中で、株主優待制度を維持しつつ予想高配当利回りの銘柄は貴重だ。「銘柄ピックアップ」で取り上げた商船三井(9104)のほかに日本製鉄(5401)も鹿島アントラーズ観戦や紀尾井ホール演奏会招待などの優待制度がある。
- 上場維持基準を下回っていても暫定的に上場を認める「経過措置」が来年3月以降に順次終了することが決まるなか、主に流通株式比率または流通株式時価総額で本来の上場維持基準を満たしていない会社(経過措置適用)のうち東証プライム上場企業は、取引所8/15公表分で71社。その内、18社は筆頭株主が上場企業だ。親子上場が少数株主保護の観点から問題ありとされる中で筆頭株主が株式売出して需給を悪化させてまで上場を維持する価値があるのか問われよう。親子または関係会社上場で筆頭株主による完全子会社化等のTOBが増える可能性もあろう。(笹木)
9/17号は、シップヘルスケアホールディングス(3360)、テクノプロ・ホールディングス(6028)、極東開発工業(7226)、商船三井(9104) 、マラヤン・バンキング(MAY)を取り上げた。
■主な企業決算の予定
- 9月16日(月):
- 9月17日(火): TOKYO BASE、パーク24、コーセル
- 9月18日(水):
- 9月19日(木): (米)フェデックス
- 9月20日(金):
■主要イベントの予定
- 9月16日(月):
・IAEA総会(ウィーン、20日まで)、IAAトランスポーテーション、プレスデー(ハノーバー、一般公開は17-22日)、中国休場(中秋節、17日まで)
・ニューヨーク連銀製造業景況指数 (9月)
- 9月17日(火):
・シャープが技術展示イベント(東京国際フォーラム)、13:30 第3次産業活動指数(前月比) (7月)
・米FOMC(18日まで)、 米20年債入札、中国休場(中秋節)
・米小売売上高(8月)、米鉱工業生産指数(8月)、米企業在庫(7月)、米NAHB住宅市場指数(9月)、独ZEW期待指数(9月)
- 9月18日(水):
・14:00 地銀協会長会見、14:30 日証協会長会見、日銀の国債買い入れオペ、08:50 貿易収支・輸出・ 輸入(8月)、08:50 コア機械受注(7月)、16:15 訪日外客数(8月)
・米FOMC最終日・パウエルFRB議長記者会見・声明と経済予測発表、ブラジル中銀とインドネシア中銀が政策金利発表、中国の中期貸出制度(MLF)1年物金利、香港休場(中秋節翌日)
・米住宅着工件数(8月)、対米証券投資(7月)、ユーロ圏CPI (8月)、英CPI (8月)
- 9月19日(木):
・11:30 日本自動車工業会の会長・副会長会見、14:00 石油連盟会長会見、15:00 全銀協会長会見、日銀金融政策決定会合、08:50 資金循環統計(4-6月速報)、14:00 首都圏新築分譲マンショ(8月)
・英中銀とノルウェー中銀と南ア中銀とトルコ中銀と台湾中銀が政策金利発表
・米新規失業保険申請件数(14日終了週)、米景気先行指数(8月)、米中古住宅販売件数(8月)、 欧州新車販売台数(8月)、豪雇用統計(8月)、ニュージーランドGDP(2Q)
- 9月20日(金):
・日銀金融政策決定会合・15:30 植田日銀総裁会見、08:30 全国CPI(8月)、08:50 対外・対内証券投資 (9月8-14日)
・ECB総裁が講演、中国1年・5年物ローンプライムレート(LPR)
・ユーロ圏消費者信頼感指数 (9月)
- 9月21日(土)・22日(日):
・ スリランカ大統領選
・国連「未来サミット」(米ニューヨーク、23日まで)、 英労働党大会(リバプール、25日迄)
(Bloombergをもとにフィリップ証券作成)
※本レポートは当社が取り扱っていない銘柄を含んでいます。
■米国株のディフェンシブ・シフト
米国株市場は生成AI(人工知能)関連の半導体や大型ハイテク株に牽引されて今年7月半ばまで堅調に推移。代表的株価指数のS&P500は7/16に史上最高値5669ポイントを付けた後、8/5まで約1割下落から8月26日と30日に史上最高値まで一時接近。その後は高値圏での推移だ。
終値で7/16から9/10までS&P500構成銘柄の騰落率上位と下位を見ると、上位ではヘルスケア、飲食、防衛関連が目立つ。ヘルスケアは医療施設が低所得者向け公的医療保険(メディケイド)追加支払い地域拡大を追い風とする。他方、今まで主力だった半導体関連の主力銘柄が軒並み下位に低迷と、生成AIに関する投資家の関心が急速に失せている。更に、低所得者向けのディスカウントストアも大きく売られるなど、消費の厳しさも窺われる。
【米国株のディフェンシブ・シフト~S&P500ピーク後に半導体・ハイテクと明暗】
■上場インフラファンドの利回り要因
東証上場のインフラファンドは太陽光発電設備を中心とする再エネ発電設備に投資を行い、J-REIT(上場不動産投資信託)と同様に法人税非課税とするために利益をほぼ全て分配金とすることが求められる。現在5銘柄が上場し、予想分配金利回りで7.13~8.74%まで高い水準となるまで投資口価格が下落。借入れ金利上昇によるコスト増要因だけではなく、上場インフラファンド独自の要因もある。
FIT(固定価格買取)制度の下で電気の需要と供給のバランスをとるための「出力制御」が行われれば、価格調整が効かないため収益減となる。「FIP制度」におけるプレミアム水準の将来動向、資産特性に係るリスク、発電設備の特性、税務上の導管性に関するリスクなども分配金利回りに反映しているとみられる。
【上場インフラファンドの利回り要因~どんなリスクが分配金利回りに反映?】
■日経累進高配当株指数の30銘柄
9月権利付き最終売買日を26日に控え、高配当利回り銘柄が注目されやすい時期だ。昨年6月末から公表が開始された「日経累進高配当株指数(愛称:しっかりインカム)」は、実績ベースで減配せず増配か配当維持(累進配当)を10年以上続ける銘柄のうち、日経の予想配当に基づく配当利回りが高い順に30銘柄で構成され、年1回定期見直し、6月末に入れ替えとされる。結果的には予想低PER(株価収益率)、低PBR(株価純資産倍率)銘柄が揃っていることもあり、東証が掲げる、投資者の視点を踏まえた「資本コストや株価を意識した経営」の観点から自社株買いを含めた更なる株主還元が期待できる余地もありそうだ。
新NISA成長投資枠で非課税メリットを堅実に享受する上では有効だろう。
【日経累進高配当株指数の30銘柄~予想低PER・低PBR・予想高配当利回り】
■銘柄ピックアップ
シップヘルスケアホールディングス(3360)
2113 円(9/13終値)
・1992年設立。医療・保健・福祉・介護の分野で、一括受注の総合サービスを行うトータルバックプロデュース事業のほか、メディカルサプライ事業、ライフケア事業、調剤薬局事業その他を営む。
・8/9発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比6.0%増の1552億円、営業利益が同8.8%減の35.02億円。売上比率73%のメディカルサプライが同11%増収、同16%のトータルバックプロデュース事業が9%減収、ライフケア、調剤薬局が増収増益も主力2事業がそれぞれ23%、17%営業減益。
・通期会社計画は、売上高が前期比1.4%増の6400億円、営業利益が同6.0%増の260億円、年間配当は同3円増の53円。米国市場でヘルスケア関連物色が強まるなか日本でも医療介護総合確保推進法の施行を受け、団塊世代が後期高齢者となる2025年に向けた医療提供体制改革および地域包括ケアシステム構築が進められることは、高利益率のトータルバックプロデュース事業へ追い風だろう。
テクノプロ・ホールディングス(6028)
2866.5 円 (9/13終値)
・2006年設立後2012年に経営陣がMBO実施しその後M&Aを通じ業況拡大。製造業の技術開発に係る技術者派遣・請負中心にR&Dアウトソーシング、施工管理アウトソーシング、国内その他、海外の4事業。
・8/8発表の2024/6通期は、売上収益が前期比9.7%増の2192億円、売上総利益から販管費を減算した事業利益が同14.1%増の243.95億円。国内在籍技術者数が同8.0%増の2万6504人、平均稼働率が95%(同0.2ポイント低下)、月次平均売上単価がソリューション事業拡大により同1.3%増の678千円。
・2025/6通期会社計画は、売上収益が前期比8.1%増の2370億円、事業利益が同10.7%増の270億円、年間配当が同10円増配の90円。中期経営計画(22年6月期初年度5ヵ年計画)で26年6月末に2万7500人迄増やす計画だったが年間2千人増員予定から前倒し達成見通し。IT分野が半数を占めるなか自動運転技術や電気自動車(EV)向け需要増の輸送用機器中心に派遣先が幅広くなった。
極東開発工業(7226)
2595 円(9/13終値)
・1955年に横浜市で設立し特装車の販売を開始。特装車事業(ダンプトラック、タンクローリ、ごみ収集車など)、環境事業(リサイクル施設の製造販売)、パーキング事業(立体駐車装置関連)を営む。
・8/7発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比9.7%増の286億円、営業利益が前年同期の▲87百万円から9.31億円へ黒字転換。売上比率86%の特装車事業は、同11%増収、営業利益が前期▲2.40億円から7.33億円へ黒字転換。パーキング事業は増収増益、環境事業は減収減益。
・通期会社計画は、売上高が前期比4.7%増の1340億円、営業利益が同30.6%増の63億円、年間配当が同93円増配の150円。25年3月期まで中期経営計画では各年度の総還元性向を100%に設定に加え、機動的自社株買い、年間配当下限を54円に設定。同社は日経累進高配当指数の構成銘柄で予想配当利回りは5.8%台。「物言う株主」ストラテジックキャピタルも保有割合増加を継続中。
商船三井(9104)
4753 円 (9/13終値)
・1964年に大阪商船と三井船舶が合併。ドライバルク事業、エネルギー・海洋事業、製品輸送事業、関連事業を主に営む。2022年1月に不動産のダイビルと港湾運営の宇徳をTOBで完全子会社化。
・7/31発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比13.2%増の4359億円、営業利益が同66.2%増の406億円。日本郵船(9101)、川崎汽船(9107)を含む3社のコンテナ定期船事業オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)からの持分法投資利益上振れ寄与で経常利益は同20.2%増の1086億円。
・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比11.5%増の1兆8150億円(従来計画1兆8000億円)、経常利益を同35.1%増の3500億円(同:2300億円)、年間配当を同60円増配の280円(同:180円)とした。2023-25年度は配当性向を22年度の25%から30%へ引き上げる一方、下限配当(150円)を入。配当利回り(足元5.9%台)と「にっぽん丸・MITSUI OCEAN FUJIクルーズ」の株主優待の両睨み。
マラヤン・バンキング(MAY)
市場:マレーシア 10.64 MYR (9/12終値)
・1969年に設立。愛称は「メイバンク」。マレーシア、シンガポール、インドネシアを中心に一般商業銀行のほかイスラム金融業務を行う。傘下のメイバンク・イスラムはイスラム銀行として国内首位。
・8/28発表の2024/12期2Q(4-6月)は、純営業収益が前年同期比0.5%増の73.79億MYR、純利益が同8.2%増の25.29億MYR。経費率は同2.1ポイント上昇悪化も、純減損引当金繰入額が同33.9%減の3.79億円と改善。貸出増と取引手数料収入堅調。前四半期比は3.1%減収も純利益が1.7%増。
・通期会社見通しは、預貸利ざやの純金利マージン(NIM)が前期比 0.05 ポイント縮小、経費率が49%。1H 実績は経費率が通期会社見通しをクリアするも、NIM は未達。成長戦略とする「サステイナブル・ファイナンス」融資残高は 6月末 832.2 億 MYR と、2025 年ターゲット 800 億 MYR を前倒しで達成。デジタルソリューション・プラットフォーム事業はマレーシアに加え人口世界4位のインドネシアでも拡大。
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アナリストのご紹介 フィリップ証券リサーチ部
笹木 和弘
フィリップ証券株式会社:リサーチ部長
証券会社にて、営業、トレーディング業務、海外市場に直結した先物取引や外国株取引のシステム開発・運営などに従事。その後は個人投資家や投資セミナー講師として活躍。2019年1月にフィリップ証券入社後は、米国・アセアン・日本市場にまたがり、ストラテジーからマクロ経済、個別銘柄、コモディティまで多岐にわたる分野でのレポート執筆などに精力的に従事。公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト(CIIA®)。