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MT5で極めるテクニカル分析

 

<MT5で極めるテクニカル分析~移動平均線①>

<シンプルが良い>

『シンプル イズ ベスト』という言葉があります。この言葉を聞くと多くの人が大きく頷き賛同することでしょう。しかし、実際には、理解するのに多少の勉強を要し、複雑化したシステムや分析方法を好むのです。おそらくは、理解するのに要すために『勉強した』という満足感に加え、自分が理解していることの優越感があるからではないでしょうか。

しかし、投資の世界を含めて勝負ごとに関していえば、やはり『シンプル イズ ベスト』が優っている、そして成績の良いことの方が多いと思います。まず、結論に至るまでのスピードが速い。そして、間違った時の修正もシンプルなだけに容易に可能となるのです。複雑化したシステムは、間違った箇所を見つけるのも容易ではないし、ミスが相互に絡み合った場合などの修正には多くの時間も要してしまいます。

このような点を踏まえてテクニカル分析を考えると、やはり、シンプルなテクニカル分析をいかに使いこなすか、という点が大事であると筆者は考えています。その方が、結果としてパフォーマンスが良いのです。そして、今回から『移動平均線』を取り上げます。テクニカル分析の教科書を開くと、最初に勉強するのが移動平均線だと思います。その計算式や考え方は他のテクニカル分析よりもシンプルなだけに、移動平均線自体は軽視されがちなテクニカル分析とも言えるでしょう。でも、上述したように、シンプルなだけに大変使い勝手の良いテクニカル分析である、と筆者は考えています。

 

<移動平均線とは>

移動平均線とは移動平均として計算された数値をつなげた線のことを言います。移動平均とは一般的に、終値をそのデータ数で割って求めます。簡単に言えば、平均値であります。

例えば、5日間の終値を合計してデータ数の5で割ると、5日の移動平均線となります。13週の終値を合計してデータ数の13で割ると、13週の移動平均線となります。
>例:

なお、週足、月足の終値は、週足であれば金曜日の終値、月足であれば月末の終値が採用されます。また、時間足であれば、毎時59分台の最後の取引価格が採用されることになります。

ちなみに、よく使われる移動平均線の数字(パラメーター)を紹介しておきましょう。
日足では、5日、10日、20日、30日が良く使われます。
週足では、6週、13週、26週、52週が使われます。
時間足だと、6時間、12時間、24時間などが使われています。
なお、パラメーターについては次号でもう少し詳しく考察したいと考えています。

上図における赤線は日足における10日移動平均線です。

 

<移動平均線の特徴>

ここで移動平均線の特徴を確認しておきたいと思います。筆者は、移動平均線の特徴は3つあると考えています。

① トレンドを示す。

これは移動平均線の基本的な特徴です。移動平均線が指している方向にトレンドが出ている、ということです。右上の方向を指しているのであれば『上昇トレンド』、右下を指しているのであれば『下落トレンド』が出ていることを表しています。また、ほぼ真横になると、トレンドが出ていない、もち合いになっていることを意味します。

② トレンドと逆の動きを吸収する。

上図の赤い矢印の部分を見てください。移動平均線は上昇トレンドを示しているのですが、その方向とは逆の陰線が出現しています。投資家は『上昇トレンドだから、価格は上がっていくであろう』と考えているのですが、それとは逆に価格が下がってきているのです。そうなると、『あれ、上昇トレンドが終わってしまうのかな』と不安になってしまう投資家もいることでしょう。しかし、移動平均線は平均値ですので、トレンドとは逆の値動きがあったとしても、その動きを吸収してトレンドを指し示してくれる、という特徴があるのです。

③ マーケットの強弱を表す

仮に、『投資家はその日の終値でしか取引が出来ない』というルールがあったとしたら、移動平均線は何を表す線でもあると言えるでしょうか。そうです。終値の平均値ですので、投資家のトレードした価格の平均値を表すことになります。つまり、10日の移動平均線であれば、10日間の投資家の売買の平均値を表すことになるのです。実際にはリアルタイムで24時間売買しているのですが、移動平均線というのはそうした投資家の売買した価格の平均値に近い数字を表しているとも言えるのではないでしょうか。そうであるならば、価格が移動平均線を上回っている時は『強気相場』、逆に価格が移動平均線を下回っている時は『弱気相場』を示していると考えることが出来るのです。アメリカのテクニカル分析の教科書には、価格が移動平均線を上抜けたら『買いシグナル』、下抜けたら『売りシグナル』と書かれてあったりします。これはシンプルですが、有効な考え方であると筆者も考えています。

 

<GCとDCの功罪>

日本における移動平均線の使用は古く、昭和30年代から使われています。特に、日本の使い方の特徴は、長短二本の移動平均線を表示して考えるところにあります。
こんな感じです。

上図は日足で赤線が10日の移動平均線と青線が20日の移動平均線を表示しています。
通常、2本の移動平均線を表示した場合、計算期間の短い移動平均線を『短期の移動平均線』、計算期間の長い移動平均線を『長期の移動平均線』と呼びます。

そして、この長短の移動平均線を使った売買シグナル『ゴールデンクロス(GC)』と『デッドクロス(DC)』があるのです。

ゴールデンクロスというのは、価格が底値をつけ上昇に転じたことで、短期の移動平均線も下げ止まりから上昇に転じ、すぐ上に位置している長期の移動平均線を上抜けていく際のクロスのことを言います。ここでの解釈は『トレンドもいよいよ上昇に転じた』ということを意味するのです。

デッドクロスというのは、価格が天井をつけて下落に転じたことで、短期の移動平均線が上昇から下落へと転じ、すぐ真下に位置している長期の移動平均線を割り込んでいく際のクロスのことを言います。『ここから下落トレンドに入った』ということを意味するのです。

 

赤丸で表示した個所が『GC』、青丸で表示をした箇所が『DC』です。E点からの下落トレンドおよびF点からの上昇トレンドを見ると売買シグナルが有効であったと言えると思います。

しかし、C点での売りシグナルを見ると、売った途端に上昇に転じています。また、D点における買いシグナルも実際にはかなり天井に近い水準で出現しています。

そうなのです。ゴールデンクロスおよびデッドクロスでの売買シグナルは、その後に大きなトレンドが出現した場合にはシグナル通りに良い結果に結びつくのですが、大きなトレンドが出ない場合には売買シグナルとして外れることも多いのです。これを『ダマシにあう』と言います。もちろん、100%完璧なテクニカル分析というものは存在しないのですが、このゴールデンクロスおよびデッドクロスでの勝率というのはあまり高くないのです。

この勝率の高くないゴールデンクロスおよびデッドクロスがあるが故に、移動平均線を敬遠する投資家が多いともいえると思っています。

でも、そこで終わりにしてしまうのであれば、『ただの投資家』です。なぜ、ダマシに遭うのか、どのように改善すれば精度が上がるのかを考えることで、一段上の投資家になれるのではないかと考えています。

次回はパラメーターを中心に考えてみたいと思います。

 

執筆者紹介

川口 一晃(オフィスKAZ代表取締役)

1986 年銀行系証券会社に入社。銀行系投資顧問や国内投信会社で11年間ファンドマネージャーを務める。
2004年10月に独立してオフィスKAZ 代表取締役に就任。